研究概要 |
本年度は,結晶性高分子,脂質・タンパク質分子複合体,粉体などを対象物質として,微結晶集合体の自発的勾配場下での固液界面不安定性,脂質高次構造中におけるタンパク質分子の拡散,界面運動と粉粒体の集団運動との相互作用によるパターン形成などについて,以下の通り研究を実施した。 (1)結晶性高分子材料は球晶とよばれる高次組織から構成される。球晶の形成には高分子板状微結晶の分岐・再配向が不可欠である。本研究では, Fingering不安定性により微結晶の分岐が起こり,分子鎖折り畳みに由来する内在応力により,分岐時に微結晶が再配向するというモデルを提案し,実験的に成功裏に検証した。本成果により,40年以上にわたる分岐機構に関する論争に終止符が打たれた。さらに,球晶高次組織について,偏光顕微鏡像からパターンの持続長を定義し,従来未解明であった高次組織の特徴付けた成功した。この持続長は上記モデルから予想される変化を示すことが実験的に検証された。また,分子量依存性に関する検討から, Fingering不安定性を引き起こす自発的勾配場が結晶-非晶の密度差に由来する負圧力勾配であることの実験的証拠が得られた。 (2)脂質の形成する高次構造の中には,ナノメートルスケールの水路が系全体を覆った構造を持つものがある。共焦点顕微鏡を用いた蛍光退色回復法により,水路中におけるタンパク質の拡散挙動を検討したらナノメートルスケール9微小空間に拘束されたタンノ汐質が、脂質膜による立体障害を受けながら拡散していることが明らかにされた。 (3)水-粉体混合液の乾燥時に生じる界面の不安定化に伴う迷路状パターンの形成機構について検討した。界面と粉粒体の運動を記述するモデルを用い,粉粒体運動と界面運動の競合について解析を行った。摩擦抵抗をパラメータとして,界面が進行と停滞を繰り返しながら蛇行する場合と,定常進行しパターンに異方性が生じる揚合を記述できることが明らかになった。
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