研究概要 |
界面活性剤等の両親媒性分子が水中で形成するリオトロピック相は,ずり流動場によりしばしば劇的な相転移や構造転移を起こす。中でもラメラ相は,ずり流動場によりオニオン相(多重膜ベシクルのみで充填された相)に転移する現象が20年近く前に見出されて以来,多くの研究がなされているが,転移の条件や機構については依然として不明の点が多い。われわれは,これまでにずり応力/小角光散乱同時測定(Rheo-SALS)およびずり応力/小角X線散乱同時測定(Rheo-SAXS)を用い,非イオン界面活性剤C_nH_<2n+1>(OC_2H_4)_mOH(C_nE_m)の一種であるC_<16>E_7と水の2成分系ラメラ相が,一定ずり速度下で温度を上昇させることによりオニオン相に転移することを見出しており,昨年度はさらにC_<14>E_4/C_<14>E_6混合系が,温度変化に伴いラメラ→オニオン→ラメラとリエントラントな転移を示すことを見出した。今年度は,(1)C_<14>E_5単独系においてもリエントラントな転移が観測されることを見出した。(2)C_<14>E_5系の低温側の転移温度付近において,Rheo-SAXSを用いて温度上昇・下降両方の過程の時間追跡を行った。その結果,ラメラ→オニオン転移ではオニオンが形成される直前にラメラ膜の速度勾配方向への配向が促進され,次いで渦方向の配向が促進されるのに対して,オニオン→ラメラ転移では渦方向の配向促進のみが観測され,速度勾配方向への配向促進は見られなかった。この結果は,ZilmanとGranekにより提唱されているラメラ→オニオン転移の機構を強く支持している。(3)C_<14>E_5系において静止状態のラメラ繰返し距離dの温度依存性を測定した結果,低温側の転移温度付近において温度上昇と共にdtが急上昇することが分かった。C_<16>E_7系においても以前同様の結果を得ており,これらの結果は,温度上昇に伴うラメラ→オニオン転移が起こるためには,ある一定値以上の膜間の水層比率が必要であることを示唆している。
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