研究概要 |
本計画研究「陽子反陽子衝突実験CDFによるトップとボトム・フレーバーの物理」では,米国フェルミ国立加速器研究所の陽子反陽子衝突型加速器テバトロン衝突器を用いた世界最高エネルギー陽子反陽子衝突実験(CDF実験)のデータ収集と物理解析を強力に推進してきた。平成22年3月に最大瞬間輝度3.8x10^<32>cm^<-2>s^<-1>を達成した。これは設計値3x10^<32>cm^<-2>s^<-1>を大きく超えるものである。平成21年度末までに積分輝度6.7fb^<-1>に相当する衝突事象データを取得した。テバトロン加速器の輝度増加に対応できるように改良した高速データ収集システムを運転している。データ収集と並行して事象再構成プログラムの改良を遂行し,データの解析を進めた。物理データは本研究費で購入した磁気ディスクに保存した。解析プログラム開発,シミュレーション,物理の検討は現有の筑波大学の計算機と新たに購入した計算機PCを用いて行なった。この衝突事象の解析によって,本研究のテーマであるトップクォーク生成崩壊の精密測定,Bハドロン生成崩壊の精密測定について,下記に示すような成果を挙げた。 ボトム・フレーバーについては,B_s,B_d→μμの崩壊探索を行い,それぞれ崩壊分岐比の上限値(95%信頼度)としてBR(B_s→μμ)<4.5x10^<-8>,BR(B_d→μμ)<7.6x10^<-9>を得た。B_s→μμについては,標準理論予言値の10倍程度となったので,2010年度にはDゼロの結果と合わせて理論予言の5倍程度まで探索可能となる。またB_s→φμμの崩壊探索を行い,この崩壊モードの初観測に成功して,崩壊分岐比BR(B_s→φμμ)=[1.44±0.33(統計)±0.46(系統)]x10^<-6>を得た。これは標準理論予言と矛盾しない値であった。 トップ・フレーバーについては,トップクォーク対生成の前後方非対称性を測定した。3.2fb^<-1>のデータを解析して前後方非対称性を測定した結果,理論予言値0.05±0.015に対して,非対称度0.193±0.065(統計)±0.024(系統)を得た。この結果は理論予言値から約2σずれている。
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