本研究では、本領域が開発するすばる望遠鏡用の広視野カメラHSCで実現可能な大規模深宇宙サーベイを念頭に、重力レンズ効果に基づいた宇宙の質量地図の作成とそのための理論的方法の開発を目的とする。さらにHSCを用いた近傍銀河古成分のサーベイ計画についても検討を行う。本年度の成果は以下のとおりになる。 1.弱重力レンズ効果を測定するのに通常用いられる方法は、銀河像形状の四重極成分を精密に測定し、多数の銀河像の統計平均を取ることにより、重力レンズの潮汐力が引き起こす成分を引き出すというものである。我々は、さらに銀河像の高次の八重極成分の測定から、重力レンズ効果の小スケールの情報を引き出す新しい方法論を構築し、実際の銀河団に適用して中心部の暗黒物質の微細構造を得た。 2.現実的な宇宙の構造形成過程に基づいて重力レンズ擬似マップを作成し、重力レンズ効果と銀河の測光的赤方偏移の情報を組み合わせ、暗黒物質の擬3次元空間分布(赤方偏移+天球上の2次元位置)を復元する方法を開発した。 3.すばる望遠鏡からさらにステップアップして、ハワイ島に建設予定の30メートル望遠鏡と考案中の新しい中間赤外検出器を用い、銀河スケールにおける暗黒物質の微細構造をどのようにして検出できるか検討し、検出器の性能に対する提案を行った。 4.局所銀河群の外にある横向き銀河NGC55に対して、すばる望遠鏡を用いた広視野測光を行い、その古成分であるハローと厚い円盤成分を検出することに成功した。また、ハローの部分構造も検出することによって、この銀河の形成過程に制限を与えた。 5.HSCを用いた近傍銀河の古い恒星種族の研究のため、独自の設計に基づいた狭帯域フィルターを作成し、今後のサーベイ観測に向けて準備を行った。
|