本研究は、国立天文台と共同で、すばる望遠鏡に広視野(1.77平方度)のCCDカメラを製作し、約2000平方度の広域銀河探査を行い、約1.5億個の銀河の形状解析から、弱い重力レンズ効果による系統的形状歪みを検出し、遠方銀河と我々の間に存在するダークマターを含めた全質量分布を求め、宇宙の3D質量分布を作成するものである。さらに宇宙の大規模構造の形成と進化、銀河の個数分布と形状進化などの観測的宇宙論の研究を進めることによって、ダークエネルギーの正体に迫る。 今年度は、イメージング解析用プログラム群(パイプライン)や弱い重力レンズ効果からcosmic shearを抽出する方法の開発などを進めた。さらに、Atacama Cosmology Telesopeにより発見された遠方(z=0.81)の巨大銀河団の弱重力レンズ効果の測定を、昨年度にすばる望遠鏡主焦点広視野カメラSuprime-Camにより取得した撮像データを用いて行った。この際、前述のHSC用のソフトウェアを用いてデータの1次処理(弱重力レンズ効果を解析する直前までの較正のことをいう)および弱重力レンズ効果測定を行った。その結果、遠方の銀河団にも関わらず重力レンズ信号を検出し、その質量を測定することに成功した。また、この遠方巨大銀河団の存在はACDM宇宙論モデルと矛盾しないことを示した。本研究は、将来Hyper Suprime-Camを用いてz~1までの宇宙論パラメータに制限を課す研究の第一歩となるものである。この結果は、博士論文[宮武広直:"Subaru weak-lensing mass measurement of a high-redshift SZ cluster ACT-CLJOO22-0036 discovered by the Atacama Cosmlogy Telescope Survey"(2011年12月)]にまとめられ、現在投稿論文の準備中である。また、現在提唱されている1個の巨大銀河団を用いてACDM宇宙論モデルを検証する手法に、有限質量を持つニュートリノの効果を考慮に入れる研究も行った。
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