研究概要 |
赤痢菌は上皮細胞への侵入において、III型分泌装置より少なくとも7種のエフェクターを上皮細胞へ分泌することが示されている。これまで我々は、菌の上皮細胞侵入においては、IpgB1エフェクターが最も中心的な役割を果たしていることを示したが(Nat Cell Biol, 2007)、今回、IpgB1と部分的に相同性を示すIpgB2がエフェクターとしてIII型分泌装置を通じて宿主細胞へ分泌することを明らかにした。IpgB2の細胞内発現により、細胞のストレスファイバー形成が亢進し、また同時にRhoAが活性化された。IpgB2を上皮細胞に過剰発現させると、赤痢菌の細胞侵入部位におけるラッフル膜形成および菌の侵入効率が著しく減少した。IpgB1とIpgB2は赤痢菌の細胞侵入に伴い上皮細胞へ分泌されるが、菌が細胞へ侵入後はプロテアソーム系に依存して速やかに分解されることを見いだした。現在、これら二つのエフェクターが分解される機序、および分解の感染における意義を解明している。 腸炎ビブリオについては本菌がもつ2種類の3型分泌装置(T3SS1およびT3SS2)に関わる蛋白質の機能を明らかにすること、および、2種類のT3SSが異なるエフェクターをどのように識別しているかについて解析を進めた。その結果、T3SS2の発現制御に関わる蛋白質2つを同定できた。2つの蛋白質は上流下流の関係にあり、全ゲノム中、PAIに存在する遺伝子群のみを特異的に制御していた。2種類のT3SSのエフェクター識別システムの解析については、T3SS2が既知のT3SSのいずれからも系統学的に遠く、シャペロン遺伝子の予測が困難であった。シャペロン遺伝子はPAI領域に存在すると予想されるので、今後網羅的なノックアウトによりシャペロン分子の同定を急ぐ。また、これまでに見いだされたエフェクターの生物活性の解析と宿主細胞中の標的分子の同定を進めていく。
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