研究概要 |
Osplによる炎症抑制:HeLa細胞へOspl遺伝子欠損株と野生型赤痢菌を感染させ免疫応答を比較した結果、Ospl欠損株は野生型に比べてIL-8やTNFa等の炎症性サイトカインの顕著な発現増加が認められた。NF-kB経路の活性化におけるOsplの作用について精査した結果、OsplはTRAF6の自己ユビキチン化を抑制することでNF-kBの活性を抑制した。さらに、OsplはTRAF6(E3ユビキチンリガーゼ)のE2(ユビキチン結合酵素)であるUbc13を基質として、Ubc13の100番目のグルタミン残基を脱アミド化修飾してグルタミン酸に変換することによってUbc13の機能を失活させることをLC-MS/MS解析により示した。同時に、本研究ではOsplの結晶構造解析に成功し、Osplの3次元構造を明らかにした。その結果、Osplはシステインプロテアーゼ様の立体構造を持ち、システイン(C)、ヒスチジン(H)、アスパラギン酸(D)からなる活性中心(C-H-D trail)を持つことが示唆された。C-H-D trialの各point mutantは、TRAF6の自己ユビキチン化、Ubc13の脱アミド化、NF-kBの活性化に伴うTNFa,IL-8の誘導に対する抑制性が解除された。本研究により、病原菌ではTRAF分子を標的とするエフェクターの存在が初めて明らかとなり、その炎症を抑制する新規なメカニズムが解明された。 腸炎ビブリオのもつ2種類の3型分泌装置のうち、ヒトへの病原性(下痢原性)に重要な役割を果たしているT3SS2の宿主における発現誘導因子が胆汁酸であることを見出し、コレスチラミンのような胆汁酸吸着剤が腸炎ビブリオによる下痢発症を制御できることを動物実験により示した。コレスチラミンは高脂血症治療薬として既に臨床的に用いられている薬剤であり、細菌性下痢症に対する新しい制御法の可能性が示された。また、下痢原性に主たる役割を果たすT3SS2エフェクターVopEの宿主細胞内標的分子がFアクチンであり、VopEのFアクチン結合能と下痢原性が相関することを明らかにし、腸炎ビブリオによる下痢発症機序に示唆を与えた。
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