研究概要 |
侵襲性A群レンサ球菌(GAS)感染症患者の病理組織縁を観察したところ,病原微生物の組織侵襲に際して補体系と協調して動員されるべき好中球が,GAS感染部位ではほとんど観察されないことが報告されている.そこで,本年度は,GASの自然免疫回避機構のうち,補体系カスケード反応の主要な分子であるC3bおよびC5aを阻害する機構に着目して研究を推進した.はじめに,好中球の遊走因子であるC5aに結合能を有するGASタンパクをリガンドブロット法で検索した.その結果,GAS菌体表層に局在するGAPDH分子が,C5aに結合することが示された.また,特異抗体を用いた阻害実験から,菌体表層GAPDHが,GAS表層に発現するセリンプロテアーゼScpAによるC5a分解反応を亢進することが明らかとなった.さらに,走化性チェンバーモデルを用いた実験から,培養上清中に遊離したGAPDHが,C5a依存性の好中球遊走を阻害することが示された. 次に,侵襲性GAS感染症患者から感染部位の血清を採取し,抗C3b抗血清を用いたウェスタンブロット分析を行った.対照群の健常者血清と比較すると,有意なC3b分解が観察された.GASのシステインプロテアーゼSpeBの組換え体および遺伝子欠失株を作製し,C3b分子と反応させたところ,組換えタンパクSpeBおよびSpeB産生性のGAS野生株には,C3b分解活性が認められたのに対して,SpeB欠失株ではC3b分解活性が消失していた.さらに,SpeB欠失株は野性株に比して,ヒト全血中における生存率が減少した.以上の結果から,SpeBがC3bを分解し,自然免疫系を撹乱している可能性が示された.
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