研究概要 |
平成20年度は,前年度までのA群レンサ球菌研究で得られた知見と構築した実験系を基にして, 肺炎レンサ球菌Streptococcus pneumoniaeに関する研究を展開した. S.pneumoniaeは, 肺炎の主たる原因菌として知られている. A群レンサ球菌において. 宿主の細胞外マトリクス(ECM)結合タンパクが付着・侵入因子として働くことから, ECMと結合するS.pneumoniaeの菌体表層タンパク質を検索し, 上皮細胞への付着・侵入に関わる機構を解析した. はじめに, S.pneumoniae R6株の全ゲノム配列から, 菌体表層に局在が予測されるLPXTGモチーフタンパクを選出し, 組換えタンパクおよび抗血清を作製した. ついで, 宿主分子との結合能を, ビオチン標識化ECMを用いたリガンドブロットにより検討した. 標的タンパク質の菌体表層における局在は, 抗血清と共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した. さらにヒト咽頭上皮細胞および肺胞上皮細胞への付着・侵入能を検索した.リガンドブロット分析から, 組換えPfbAはヒト由来のフィブロネクチン, プラスミン, プラスミノーゲンおよび血清アルブミンと結合することが示された. 抗PfbA血清を用いた共焦点レーザー顕微鏡により, PfbAが菌体表層に局在することが観察された. pfbA遺伝子欠失株のヒト咽頭土皮細胞および肺胞上皮細胞への付着・侵入率は, 野生株と比較して50%に低下した. ウシ胎児血清非添加時の土皮細胞に対する野生株の付着・侵入率は, 添加時と比較して90%の低下を示した. 一方, pfbA遺伝子欠失株では50%の低下であった. 以上の結果から, S.pneumoniae R6珠の菌体表層タンパクPfbAはヒト上皮細胞への付着・侵入因子であり, 血清成分を介した付着・侵入機構の一端を担うことが示唆された.
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