研究概要 |
グラム陽性菌である肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)の感染症としては,肺炎や中耳炎などがある.肺炎はわが国でも毎年8万人以上が死亡する疾患であり,肺炎レンサ球菌が主たる起因菌のつとされている.本年度は,前年度までのA群レンサ球菌研究で確立した実験手技と研究知見を基に,肺炎レンサ球菌が肺胞上皮細胞へ付篇・侵入するメカニズムを解析した.はじめに,肺炎レンサ球菌の菌体表層に発現するフィブロネクチン結合タンパクPfbAを新規に同定した.次に,PfbAがフィブロネクチン結合を介して,上皮細胞に付着・侵入することを示した. 続いて,肺炎レンサ球菌が組織侵入後に自然免疫系を回避する機構を調べた.その結果、抗貪食性に働く莢膜の発現量を負に調節するnrc遺伝子を見出した.さらに,同菌が菌体表層および培養上清に発現するenolaseが,好中球に対して遊走活性と細胞障害活性を発揮することを明らかにした,enolaseが好中球に誘導する細胞死の形態を解析したところ,「細胞外微生物捕獲構造物(neutrophil extracellular traps ; NETs)」を伴うNETosis細胞死であった.併せて,肺炎レンサ球菌のenolaseに対する好中球の受容体候補を検索し,機能未知のタンパクであるmyoblast antigen 24.1D5を同定した.共焦点レーザー顕微鏡およびフローサイトメトリーの結果,myoblast antigen 24.1D5はヒト好中球表層に発現するが,ヒト単球およびヒトT細胞表層には認められないことが示された. これらの結果から,肺炎レンサ球菌のenolaseは,好中球を感染部位へ浸潤させた後,NETosis細胞死を誘導することで,感染初発部位である肺における自然免疫を回避し,深部組織へ侵入する可能性が示唆された.
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