1.麻疹ウイルスワクチン株はSLAMに加えてCD46を受容体として使うことができ、それには受容体結合蛋白であるH蛋白のN481Y変異が重要であると言われてきた。SLAMしか使えない麻疹ウイルス野生株のH蛋白にN481Y変異のみを導入した組換えウイルスを作製したところ、CD46を受容体として使えるようになるが、その効率は非常に悪いことが分かった。そこで、野生株H蛋白とワクチン株H蛋白間のキメラ分子や部位特異的変異を導入した野生株H蛋白分子を作製した。また、それら変異H蛋白を持つ組換えウイルスを作製した。これらを用いた解析により、CD46を効率よく受容体として使うためにはN481Y変異に加えて他に数個の変異が必要であることが明らかになった。 2.H蛋白と受容体の相互作用の構造的基盤を明らかにするために可溶性のH蛋白を精製して結晶化し、X線解析によりその構造を明らかにした。H蛋白は6個のβシートの羽根を持つプロペラ状の構造をし、SLAMと相互作用するアミノ酸残基はβシート5に、CD46と相互作用するアミノ酸残基はβシート3、4、5に存在していた。 3.非構造蛋白であるC蛋白を欠失した組換え麻疹ウイルスを作製したところ、ウイルスの侵入、転写には野生型ウイルスと差は認められなかったが、ウイルス蛋白合成やウイルス産生は減少した。また、感染細胞におけるI型インターフェロンの産生が増加した。これらの異常は、I型インターフェロン産生を抑える働きを持つインフルエンザウイルスNS1蛋白を細胞に発現させることによって消失した。以上の結果から、麻疹ウイルスのC蛋白は、インフルエンザウイルスNS1蛋白同様、宿主細胞のI型インターフェロン産生を抑制することによってウイルス増殖を助けていると考えられた。
|