研究概要 |
麻疹ウイルスは、免疫系細胞に発現しているsignaling lymphocyte activation molecule(SLAM、CD150)に加えて、極性上皮細胞上に存在する未知の受容体を用いて細胞に侵入できることを明らかにした。また、ワクチン株や実験室株は、受容体結合蛋白質であるH蛋白質のアミノ酸置換により、これらの受容体に加えCD46も受容体として使うことができるようになる。H蛋白質と受容体の相互作用を明らかにするために、H蛋白質を精製し、その結晶構造をX線解析により決定した。H蛋白質は二量体構造をとり、その受容体結合ドメインは六つの羽根(それぞれはベータ・シート構造からなる)をもつプロペラ状構造をしていた。また、分子の大部分はN結合型糖鎖で覆われていると考えられた。部位特異的変異体の機能解析から、SLAM、CD46、未知の上皮細胞受容体の3つの分子との相互作用に重要なH蛋白質上のアミノ酸残基が同定されている。これらの残基を解明されたH蛋白質立体構造上に当てはめてみると、糖鎖に覆われていない領域のそれぞれ異なる場所に位置していた。これらの予想される受容体結合部位は、単量体上では分子の側面に位置し,受容体との結合には不都合であるように見えた。しかし,二量体構造上では各単量体が互いに水平面方向に大きく傾くことによって、受容体結合部位が分子の頂点に近い部位に来る配向をとり、それぞれの受容体と結合しやすくなっていることが分かった。H蛋白質の立体構造の解明は、麻疹ウイルスの細胞侵入機構の理解や、ウイルス侵入を阻害する化合物の開発に有用な情報を提供した。
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