1.上皮細胞に存在する麻疹ウイルス受容体の性質を明らかにするために、麻疹ウイルスに感受性のある極性上皮細胞に転写抑制因子Snailを導入して上皮間葉転換を誘導したところ、麻疹ウイルスが感染しなくなった。また、tight junctionを高度に形成した極性上皮細胞では麻疹ウイルスに対する感受性はむしろ低下したが、Caを含まない培養液で培養すると感受性を示すようになった。以上のことから、上皮細胞上の麻疹ウイルス受容体は、tight junctionのbasolateral側に存在し、上皮間葉転換により細胞から失われる分子だと考えられる。 2.麻疹ウイルスの受容体結合蛋白質(H蛋白質)と受容体SLAMの複合体の結晶構造解析をおこなった。その結果、H蛋白質の表面で糖鎖に覆われていないと考えられる領域の大部分を占めるかたちでSLAMが結合していた。この領域は中和抗体の結合部位と重なっていた。ウイルスの受容体結合部位は変異を起こしにくい。そこが抗体の標的になっていることが、麻疹ウイルスが免疫応答から回避できず、単一血清型を示す理由だと考えられる。また、SLAM上のH蛋白質結合部位は、SLAM同士の結合部位と一部重なっていたが、同一ではなかった。さらに、構造解析からH蛋白質・SLAM複合体は2種類の配向をもつ4量体構造を示すことがわかった。受容体の結合により、この2種類の配向間で構造が変化することが膜融合の引き金になっていることが示唆された。
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