植物型ATP合成酵素のγサブユニットの回転調節機構の詳細を明らかにするために、シアノバクテリアATP合成酵素のADP阻害とε阻害の力学的な強さの違いを磁気ピンセットを用いて1分子レベルで計測した。その結果、ε阻害はADP阻害に比べて2倍程度強固にγの回転を止めていることが明らかになり、両者は関係はあるものの別個の阻害であることが明らかになった(論文投稿中)。また、葉緑体型ATP合成酵素のγサブユニットに特徴的な挿入配列の役割を明らかにするため、この配列を削除した変異体の詳細な解析を行った。1分子観察の結果から、この挿入配列がADP阻害の誘導に重要な役割を果たしていることおよび挿入配列を欠損したシアノバクテリアの生理レベルでの解析から、ADP阻害が暗所での細胞内のATPレベルの維持に直接的な役割を持っていることを明らかにした(論文投稿中)。さらに、葉緑体型ATP合成酵素のεサブユニットの機能を明らかにするために、C末端ヘリックス部分を削除した変異体を持ったシアノバクテリアを作出し、その生理・生化学的な解析を行った。興味深いことに、C末端を欠いたεを持つチラコイド膜は、プロトン勾配の形成に異常を来すことが明らかになった(論文執筆中)。 ATP結合能を持たず、阻害効果の強い変異体εサブユニットを用いた回転1分子解析によって、εサブユニットによる停止状態は、ADP阻害と比較して長い寿命を持つものであることがわかった。また生化学的な解析によって、εサブユニットへのATP結合がFoとF1の共役に重要な役割を持つことが明らかになった。この他、阻害状態における触媒部位へのヌクレオチド結合のεサブユニットの有無による違いを解析することによって、ATP合成反応におけるεサブユニットの役割について、新たなモデルを提案した。
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