分子モーターの制御とは、モーター分子の原子レベルでの動きの制御である。本研究では、これを理解するために、回転軸(γサブユニット)側からの研究と、外的要因の研究を同時平行して実施した。(1)酸化還元調節を受ける葉緑体型ATP合成酵素のγサブユニットの構造変化による回転制御を1分子レベルで解析するため、制御スイッチを導入したシアノバクテリアのATP合成酵素部分複合体を用いて回転実験を行い、正確な角度解析により軸受け側のγサブユニットの構造と停止位置の対応付けを行った。また、磁気ピンセット技術を用いて、停止と回転に要する力を実測した。さらに、制御時に起こる構造変化を立体構造レベルで解明し、制御と構造の関連付けを行なった。一連の研究により、酸化による停止位置、酸化による活性低下とε阻害の関係を明らかにした。(2)内在性阻害因子であるεサブユニットの機能を、阻害にかかる力の測定と分子構造の変化の両面から検証した。さらに内在性阻害因子の構造変化と膜ポテンシャルの関連付けを目指した。(3)シアノバクテリアを材料としてATP合成酵素の制御機構に変位を導入した変異株を作成し、細胞内におけるATP合成量と分子レベルでのATP合成酵素の活性変化の対応付けを行うことにより、ATP合成酵素の調節が特に光合成を行うことのできない暗所において細胞内ATPレベルを維持する機構として重要であることを明らかにし、この酵素の調節機構の生理的な重要性を明らかにした。
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