本研究では、細菌べん毛モーターのトルク発生ユニットを構成する分子の構造基盤を明らかにし、分子モーターの構築・回転機構の解明を目指している。また、F_0F_1システムとの類似が明らかになったべん毛輸送装置の構造と作動機構の解明にも取り組んでいる。本年度の主な成果を、以下に記す。 1.ビブリオ菌固定子蛋白質PomBペリプラズムフラグメントPomBc(132-315)の構造を2.5A分解能で解析した。MotBcと同様の2量体を形成し、N末側に長短2本のヘリックスが存在した。さらに、PomBの機能に重要な122-131の領域を含むPomBc(122-315)の結晶化にも成功し、回折データを収集した。 2.ビブリオ菌固定子蛋白質FlgTが3つのドメインから成ることを明らかにした。 3.サルモネラ菌固定子蛋白質MotBはモーター組込み時に大きく構造変化すると考えられているが、構造変化後と考えられるMotB(L119P)変異体の結晶作成に成功し、2.5A分解能の回折データを収集した。 4.時計回りの回転と反時計回りの回転にバイアスされたモーターの回転ステップ計測を行い、トルク発生の素過程が回転方向によらず対称であることを示した。 5.時計回りに回転方向がバイアスされた変異FliGの構造と回転計測の結果に基づき、モーターの回転方向がスイッチする分子モデルを提案した。 6.MotAの細胞質ループ中の荷電残基が固定子の回転子周囲への組込みに重要であることを見出した。 7.FliJ変異体の解析からFliI-FliJ複合体がFliJを介してべん毛輸送装置を構成する膜蛋白質と相互作用し、その結果FliIのATPase活性が著しく上昇することを明らかにした。 8.FliH-FliI複合体のFliI部分の構造から、FliIがF_1ATPase6量体中のα/βサブユニットの相互作用と同様の相互作用で複合体形成をすることが分かった。
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