本研究課題の目標は、独自の光学顕微鏡技術を用い、膜超分子モーター(主にF_0F_1-ATPase)の作動原理について、1分子のレベルで解明することである。本研究期間中に、研究代表者の光学系の技術を発展させながら、分子モーターの特徴的な動きを定量的に解析することができた。主な研究成果は以下にあげる。 (1)F_1-ATPaseの回転の3次元観察。F_1-ATPaseは回転分子モーターであり、ATPを分解するエネルギーを用いて回転軸であるγサブユニットを一方向に回転させる。この正確な回転平面を、個々の分子を対象にして決定し、軸の倒れを正確に見積もることができた。 (2)リニア分子モーターによって滑り運動する微小管の動きの3次元観察。この生物試料は膜超分子モーターには属さないものの、開発している装置のスペックを正確に評価する上で重要な基礎研究である。コナミドリムシから精製したダイニンモーター(dynein c)と、ヒト由来のキネシンモーターでは、微小管の振る舞いに大きな違いがあることが分かった。 (3)F_1-ATPaseのβサブユニット内の構造変化の可視化。これは本課題の研究代表者によるH15-18年度のさきがけ研究を発展させた内容であり、本課題においては、研究分担者の政池知子氏により新しい切り口からの実験が進められている。独自の全反射型顕微鏡を用いた測定手法は共通しているが、ATP分解の遅い変異体と野生型を組み合わせた、ハイブリッド蛋白を用いている点に特徴がある。現在までに、βサブユニットの中間的な化学状態と構造を比較する上での、前段階的な結果が得られた。 以上のような研究を進めることで、蛋白の部分的な領域が機能する瞬間のダイナミクスについて、1分子のレベルで議論するための技術を確立していく。
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