本研究課題の目標は、独自の光学顕微鏡技術を用い、膜超分子モーター(主にF_0F_1-ATPase)の作動原理について、1分子のレベルで解明することである。本研究期間中に、研究代表者の光学系の技術を発展させ、重要な2つの成果を論文として発表した。 (1) 3次元位置検出顕微鏡の応用例として、リニア分子モーターであるキネシン・微小管系における回転成分を検出する実験を行った。これはH19年1月より、本研究に科研費研究員として参画した矢島潤一郎氏(現・学習院大学博士研究員)が中心となって進めた研究である。量子ナノクリスタルの動きを通じて、微小管のコークス列ユー状の動きを精度良く検出する実験系が完成された。これにより、細胞分裂に関与するリニアモーターEg5が回転モーターとして機能する様子が、ありありと画像化された。この研究は、国内(矢島氏は生物物理学会若手奨励賞を受賞、H19年度)においても国外においても高い評価を得ている。 (2) 化学状態と蛋白質内部のコンフォーメーション変化がどのように対応しているかは、生物物理学における最重要課題の1つである。研究分担者(H20年度まで)の政池氏が中心となって、初年度よりこの研究を進めてきた。色素の振動モーメントの向きを、特殊な全反射型顕微鏡で可視化するという方法(研究代表者の西坂が発明)を用い、F1-ATPaseの構造変化を、特定の領域に限定して可視化することに成功した。βサブユニットのC末端ドメインの構造変化について、1分子のレベルで再現性良く検出でき、さらにハイブリッドのミュータントを用いることで化学状態とのカップリングも明らかにできた。領域発足2年目になった時点で、テータを統計的に解釈するための解析が進んだため、関連成果を発表した。
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