昨年度におけるトレニアの花粉管ガイダンス分子LUREの同定を受けて、今年度、ゲノム障壁の打破を目指すためにも、シロイヌナズナの花粉管ガイダンス分子の同定を目指した。そこで、シロイヌナズナのゲノム上に存在する825のCRP遺伝子から、トレニアのLUREで見られた特徴をもとに候補遺伝子を絞り込んだ。一つの系統群にまとまる5遺伝子に着目して解析を進めたところ、これらは助細胞特異的に発現し、珠柄の部位まで分泌された。誘引活性を、シロイヌナズナ用に開発したアッセイ系で調べると、システイン1残基が他のアミノ酸に置換した遺伝子の産物を除いて、全て高い誘引活性を示した。このシステインに置換が見られる遺伝子についても、人為的にアミノ酸をシステインに戻すと、誘引活性が回復した。また、トレニアのLUREsは、シロイヌナズナの花粉管に対して誘引活性を示さなかった。さらに5遺伝子をRNAiにより発現阻害すると、雌蕊内部においても花粉管の走性パターンが乱れる様子が観察されるとともに、胚嚢による誘引能が低下していることがin vitroで示唆されつつある。以上の結果は、これらの遺伝子がシロイヌナズナの誘引物質遺伝子であることを示している。シロイヌナズナでもトレニアのLURH同様のCRPが誘引物質であることが明らかになるとともに、ゲノム情報や既知の変異体を用いてこれらの遺伝子について調べた結果から、さまざまな興味深い知見が明らかになってきている。
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