本研究では、初期受粉過程の種間障壁形成に関わる「和合シグナル」の実体解明と、当該シグナルにより誘起される生理変化の実体解明を目的とする。本年度の研究成果は以下の通り。 (1)「和合シグナル」モニター系の確立 和合受粉時には乳頭細胞内で特徴的な[Ca^<2+>]変動が認められる。この[Ca^<2+>]変動をon timeにモニターするために、[Ca^<2+>]センサー蛋白質yellow cameleonを導入した形質転換シロイヌナズナを作出した。その結果、明確な[Ca^<2+>1変動を観察できる形質転換体を得ることに成功したが、その形質は後代では消失してしまった。今後さらに安定な形質転換体の取得を目指して形質転換作業を継続していく予定である。また、乳頭細胞内のアクチン骨格の変動をOn timeにモニターするために、アクチン結合蛋白質talinとGFPとの融合タンパク質を乳頭細胞内に発現させた形質転換シロイヌナズナの作出を試みたが、十分な蛍光を示す高発現体を得ることは出来なかった。これは、talinの細胞毒性に帰因することが考えられるため、今後他のアクチン結合蛋白質を用いて同様の形質転換体を作出していく計画である。 (2)「和合シグナル」分子の性状解明 Yellow cameleonを導入した当代の形質転換体およびtalin-GFPを一過性に発現させた乳頭細胞をモニター系として用い、「和合シグナル」の花粉における局在を解析した。その結果、和合受粉時に認められる乳頭細胞内[Ca^<2+>]変動とアクチンの重合・束化は、シクロヘキサン処理によりpollen coatを除去した花粉を受粉した際には認められず、逆に抽出したpollen coatのみを乳頭細胞に処理した際には認められることが判明し、この様な変化を誘導する花粉の「和合シグナル」は、pollen coat中に含まれることが明かとなった。
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