研究概要 |
カルパインは,細胞質内にあって厳密に基質を認識して限定分解する,Ca2+-要求性モジュレータ・プロテアーゼである。哺乳類のカルパイン15遺伝子のうち7種は,その変異が疾患・致死を引き起こす。よって,カルパインが生体の正常な維持に必須な酵素であることは明らかである。ヒトのカルパイン不全による疾患には筋ジストロフィー,糖尿病などが含まれ,カルパインを標的とした診断・治療の期待が高まっている。一方で,カルパインの作用機序ついては未だにほとんどが不明である。そこで本研究では,カルパインの作用機序を個体,細胞,in vitroの各レベルから解析し,カルパイン不全による生体システム破綻のメカニズムを明確にし,カルパインが生体をモジュレートする分子機構の解明を目的とした。今年度は,様々なカルパイン遺伝子改変マウスを利用し,様々な解析を継続した。まず,p94ノックインマウスについて平常状態,及び,トレッドミルによる過運動負荷時の両方について,野生型との比較解析を詳細に行なった。その結果,平常時には強い表現型ではないp94ノックインマウスの骨格筋内に,過運動負荷時にはかなり重篤なジストロフィー症状が検出されるようになった。一方,胃特異的カルパインnCL-2については,生化学的解析を進め,これまでコンベンショナルカルパインで知られていたドメインIV-VIを介したヘテロダイマー形成の代わりに,ドメインIIIを介したホモオリゴマー形成をしていることを明らかとした。
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