本研究の目的は"触→痛"への応答変換に関与するセンサー分子群の単離と、センサー機能のモーダルシフトによる触覚受容の病的変化のメカニズムを明らかにすることである。昨年度、末梢型ベンゾジアゼピン受容体(PBR)拮抗薬PK11195に"触→痛"への応答変換を阻害する働きがあることを明らかにし、本受容体活性化が神経因性疼痛の発症、維持に関与する可能性を示したがそのメカニズムに関しては不明であった。そこで今年度はこのメカニズムの解明を目標に、PBRの脊髄における発現様式の検討、本受容体が関与する種々のシグナル伝達系の下流分子の活性化、不活性化の影響を探索した。まず神経損傷(SNL)マウス脊髄におけるPBR蛋白の発現パターンを解析したところ、PBRは非損傷サイドにおいてその発現量は非常に低く、損傷サイドの脊髄において有意差の認められない程度のかすかな発現上昇を示すことが明らかとなった。一方、これまでの報告通り損傷サイドの脊髄においてミクログリアの著しい集積が認められた。PBRの生理機能として重要なのはコレステロールをミトコンドリアへと輸送するトランスポーター機能である。運ばれたコレステロールは代謝されプロゲステロンへと変換され、さらに代謝されるとGABA_A受容体のアゴニスト作用を持つアロプレグナノロンへと変換する。そこでPK11195による鎮痛効果がニューロステロイド合成の減少、それに伴う、プロゲステロン受容体あるいはGABA_A受容体活性化の低下によるものかどうかを検討した。その結果、プロゲステロンはPK11195による鎮痛効果に何の影響も及ぼさないことが明らかとなった。それに対しアロプレグナノロンは、PK11195による機械性アロディニアの軽減には何ら影響を与えなかったが、熱性痛覚過敏の軽減作用を抑制した。したがってGABA_A受容体活性化の抑制作用がPK11195による神経因性疼痛抑制作用において部分的に貢献していることが示唆された。
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