研究概要 |
本研究の目的は"触→痛"への応答変換に関与するセンサー分子群の単離と、センサー機能のモーダルシフトによる触覚受容の病的変化のメカニズムを明らかにすることである。神経因性疼痛は様々な神経の傷害や病的変化により発症し、アロディニア、痛覚過敏、自発痛などの臨床症状を特徴とする難治性慢性疼痛である。発症および維持に関与する分子メカニズムに関しては現在も未解明な点が多く、新規の薬理学的対処法の開発が望まれている。我々は先の研究で、神経型(N型)Caチャネルノックアウトマウスでは神経因性疼痛が著明に減弱していることを見出した。そこで野生型(Ca_v2.2^<+/+>)および変異型(Ca_v2.2^<-/->)マウスの脊髄における遺伝子発現を比較することで神経因性疼痛に関与する分子を選別し、その1つとしてセリン/スレオニンリン酸化酵素の一種であるCK1ε(カゼインキナーゼ1イプシロン)が、マウスの神経因性疼痛に関与する分子であることを新たに見出した。CK1は哺乳類ゲノムに存在する8群の主要なタンパク質リン酸化酵素群の内の1群を形成し、分化やサーカディアンリズムなど、様々なシグナル伝達に関連することが報告されている。哺乳類では現在7種のアイソフォーム(α,β,γ1~3,δ,ε)の存在が知られているが、痛覚を含めた体性感覚経路における機能に関する報告はこれまでなされていない。CK1εは脊髄後角細胞と後根神経節に分布し、脊髄神経傷害により発現が上昇した。CK1阻害薬を髄腔内に投与すると、神経因性疼痛行動が抑制され、さらに神経因性疼痛を発症したマウスより作製した脊髄スライス標本では、後角で記録される後根刺激誘発興奮性膜電位応答がCK1阻害薬により抑制された。これらの結果からCK1εは一次求心性線維から脊髄後角細胞への神経因性疼痛伝達に関与する事が示唆された。
|