計画研究
本研究の目的は"触→痛"への応答変換に関与するセンサー分子群の単離と、センサー機能のモーダルシフトによる触覚受容の病的変化のメカニズムを明らかにすることである。神経因性疼痛は様々な神経の傷害や病的変化により発症する難治性慢性疼痛である。我々は先の研究で、セリン/スレオニンリン酸化酵素の一種であるCK1ε(カゼインキナーゼ1イプシロン)が、マウスの神経因性疼痛に関与する分子であることを新たに見出した。すなわちCK1δ/ε特異的阻害薬であるIC261を髄腔内に投与すると、神経因性疼痛行動が抑制され、さらに神経因性疼痛を発症したマウスより作製した脊髄スライス標本では、後角で記録される後根刺激誘発興奮性膜電位応答がIC261により抑制された。さらにCK1ε蛋白質の発現が後根神経節および脊髄後角において上昇した。これらの結果からCK1εは一次求心性線維から脊髄後角細胞への神経因性疼痛伝達に関与する事が示唆された。そこで今年度は炎症性疼痛におけるCK1εの関与の可能性について検討した。炎症性疼痛として、カラゲニンあるいはCFAを足底皮下投与により作成したモデルマウスを用いた。そしてこれらモデルマウスにおいて観察される熱性痛覚過敏反応がIC261の髄腔内投与により濃度依存的に減弱することが明らかとなった。我々はこれまでに神経因性疼痛モデルマウスにおいて、CK1ε蛋白質が後根神経節及び脊髄後角において発現上昇することを見出しているのでこれら炎症性疼痛モデルマウスにおいても検討したところ、後根神経節及び脊髄後角におけるCK1δあるいはCK1εの蛋白発現量に変化は認められなかった。しかしながらモデルマウスのこれら組織において正常マウスにおいては認められないIC261感受性キナーゼ活性が検出された。これらの結果から、炎症性障害は脊髄後角および後根神経節におけるCK1δ/εの活性化を誘導し、それにより痛みを引き起こすことが示唆される。
すべて 2011 2010 その他
すべて 学会発表 (6件) 備考 (1件)
http://www.tmd.ac.jp/med/mphm/Yakuri.HTM