光活性化アデニル酸シクラーゼ(PAC)の構造と機能に関して以下の成果を得た:大量発現系開発:ミドリムシ近縁生物であるリーシュマニア(Leishmania tarentolae)においてPAC発現系を構築した。この系は良好にPACを発現し、可溶性タンパク質として回収することができた。粗精製されたタンパク質は顕著なアデニル酸シクラーゼ活性を示し、しかもそれは光照射により増大した。これは異種発現系において生化学的にPACの光活性化能が確認された最初の例である。単一分子分光分析:前年度までに、東工大グループとの共同で、反射型対物レンズを機軸とした共焦点光学系を用いて、液体ヘリウム温度下におけるPACの単一分子蛍光測定をおこなってきた。その結果、PAC1分子には8個のFADが結合していることが示されたほか、PACには水素結合ネットワークの異なる2つの状態が存在し、これが光スイッチングを反映したものであることが示唆された。本年度はさらに単一分子の赤外吸収をモニターする新規手法の開発を行い、PACの活性化メカニズム解明へ向けての足掛かりができた。構造と機能に関する理論解析:前年度までに、PACの機能ドメインのホモロジーモデリングを行い、それを基にしたドッキング解析によりαサブユニットの対象性の良いモデルが構築できた。本年度はそれをβサブユニットに拡張し、PAC分子全体像のモデル化への基盤ができた。単粒子解析:大阪大グループとの共同で電子顕微鏡によるPACの単粒子解析を行った。前年度までに、ミドリムシから精製したPAC分子の三次元構造再構築に成功しており、その構造が上述のドッキング解析で推測されたPACのサブユニット構造に良く適合することが示された。さらに、ミドリムシの光受容オルガネラに見られる格子状構造もPACの配置で説明可能であることが示された。
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