研究概要 |
昨年までの研究により、ラット海馬傷害領域において、ミクログリアがATPセンサーP2Y_<12>受容体により走化性を獲得して傷害部位に集積すること、傷害細胞由来のUDPをP2Y_6受容体で認識して死細胞を貪食により除去すること(Koizumi et al., Nature 2007)、さらに集積したミクログリアはTGF-βのシグナルを介して貪食センサーであるP2Y_6受容体発現を亢進させることが明らかとなった。また、このTGF-βのソースとしてアストロサイトが重要であること、アストロサイトはミクログリアからのTNF-αシグナルを受容してTGF-β発現を亢進させることを明らかとしてきた。本年は、このミクログリアのTNF-α産生メカニズム解明を目指した。傷害部位に集積したミクログリアは、そこでより高濃度のATPに曝露される。この高濃度ATPを感知するP2X7受容体の活性化は、ミクログリアのTNF-α産生を亢進した。また、カイニン酸による神経細胞傷害時TNF-α産生は、ミクログリア依存的であり、またP2X7受容体拮抗薬により抑制された。 以上、神経細胞傷害時にP2Y_<12>受容体、P2X_7受容体、さらにP2Y_6受容体という3種の異なるATPセンサー間相互作用により、ミクログリアの機能が制御され、遊走、貪食による死細胞の除去が行われていることが明らかとなった。さらにこれらATPセンサーの相互作用は独立した1種類の細胞自律的(cell-autonomous effect)なイベントではなく、神経-ミクログリア-アストロサイトの3種細胞間での非常に巧妙なコミュニケーションにより、コントロールされていることが明らかとなった。この様に、脳の恒常性は、神経細胞のみにより維持されているのではなく、グリア細胞を含めた細胞非自律的(non-cell autonomous effect)なイベントであること、またこの細胞非自律的イベントにはATP及び各種ATPセンサーが重要な役割を果たしていることが明らかとなった。
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