研究概要 |
目的 : 細胞や個体は様々な温度環境の中で生きており、その温度という環境外情報を感知してよりよい生存応答へと細胞・個体を導いている。著しく高いあるいは低い温度は侵害刺激として細胞や個体に忌避行動をとらせる。カプサイシン受容体TRPV1が1997年にクローニングされ、温度受容体として機能することが明らかになってからこれまでに哺乳類では9つの温度センサー(TRPV1, TRPV2, TRPV3, TRPV4, TRPM2, TRPM4, TRPM5, TRPM8, TRPA1)が報告されてきた。このように9つのTRPチャネルが温度刺激によって活性化することが明らかになったが、温度によるイオンチャネルの活性化のメカニズムはTRPV1, TRPM8, TRPM4, TRPM5においてしか報告されておらず、感覚神経以外に発現する温度センサーTRPチャネルの機能も明らかでない。そこで、本研究では、感覚神経での発現が少なく表皮ケラチノサイトや視床下部に発現しており、その温度感受性を私たちが見いだしたTRPV4と、同じくケラチノサイトに発現するTRPV3に焦点をあて、それら温かい温度を受容する温度センサーTRPチャネル活性化の分子メカニズムを明らかにすることを主目的とする。そのために、TRPV3, V4チャネルの温度活性化の構造機能解析、TRPV3, TRPV4の結合蛋白質との相互作用による温度センシング機能制御の解析、TRPV3欠損マウス、TRPV4欠損マウス用いたセンサー分子の個体への作用解析、複数の種のTRPV4チャネルの活性化温度閾値の違い(モーダルシフト)から異なる活性化温度閾値の構造基盤解析を行うものである。 計画 : (1)新生仔マウスケラチノサイトの初代培養系を確立し、TRPV3, TRPV4の機能的発現を確認する。(2)マウスケラチノサイトがTRPV3, TRPV4を発現していることをin situ hybridization法、免疫組織化学法を用いて検討する。(3)TRPV4の温度活性化機構(電流の大きさや活性化温度閾値が)がリン酸化によって制御を受けていないか、種々の蛋白質リン酸化酵素およびその刺激剤、阻害剤を投与してTRPV4膜電流を検索する。(4)Yeast Two-hybrid法を用いてTRPV3, TRPV4のN末あるいはC末と結合する蛋白質を探索する。さらに、HEK293細胞あるいはCHO細胞に共発現させて、刺激物質によるTRPV3, TRPV4活性がTRPV3あるいはTRPV4単独発現細胞と違いがあるかを電気生理学的に検討する。(5)TRPV4の体温調節機構における役割を検討するためにマウス腹腔内に温度プローブを埋め込み、自由行動下で体温と行動量を観察する。(6)各種のTRPV4の活性化温度閾値を定量化するとともに、アラインメントやキメラ体の解析も加えてTRPV4の温度センシング機構に関わるドメインを同定する。(7)視床下部神経細胞におけるTRPV4の意義を明らかにする目的で、種々の蛋白質との多重染色を行い、TRPV4発現細胞のcharacterizationを行う。また、GFP-TRPV4 transgenic mouseを作成して、TRPV4発現細胞の詳細な電気生理学的characterizationを行う。(8)温度感知は生物にとっても最も基本的な感覚である。温度センサーTRPV4のインシリコ解析によって、両生類で複数種(5種類)のTRPV4が存在すること、およびカエルTRPV4のアミノ末端に進化上いくつかの変異が生じてきたことが明らかになっている。そこで、両生類のTRPV4の中で活性化温度閾値に違いがないかを検討して関与するアミノ酸同定を試みるとともに、進化で生じた変異を人為的に哺乳類TRPV4に導入して活性化温度閾値を測定して、その変異アミノ酸の温度受容への関与を解析する。
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