研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
18H05401
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
志垣 賢太 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (70354743)
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研究分担者 |
濱垣 秀樹 長崎総合科学大学, 新技術創成研究所, 特命教授 (90114610)
中條 達也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (70418622)
郡司 卓 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10451832)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 高エネルギー原子核衝突 / パートン多体系 / ハドロン生成機構 |
研究実績の概要 |
ALICE実験中央検出器系の主飛跡検出器は世界最大のタイム・プロジェクション・チェンバであり、電子のドリフト長が長く、また多数の荷電粒子の検出に伴い生成する正イオンの逆流によるドリフト電場歪みを抑える機構のため、読出速度に上限がありALICE実験全体のデータ収集を律速している。このドリフト電子検出部をワイヤ・チェンバからガス電子増幅器に置換し、鉛-鉛原子核衝突の場合で最大0.5 kHzから50 kHzへ2桁の高速化を実現する。2020年度は、主飛跡検出器の開発建設を完了してALICE実験に導入した。 ALICE実験前方検出器系は飛跡測定系の上流に厚さ10反応長のハドロン吸収体を備え、ミュー粒子に対する飛跡測定と同定を可能とするが、同時に一次衝突点への飛跡逆追性能に制約がある。このハドロン吸収体の上流に10層の半導体飛跡検出器を導入し、吸収体下流に既存の飛跡および運動量測定系と併せて、ミュー粒子対の不変質量分解能を向上し、また重クォークに由来する二次生成ミュー粒子の同定を実現する。2020年度は、新規前方ミュー粒子飛跡検出器の開発建設を完了してALICE実験に導入した。 従来の100倍速でのデータ収集に向け、検出器と併せて収集系の高速化も必須である。特に通常手法では選択的収集が困難な稀事象の高統計高精度測定のため、従来のオンラインとオフラインを統合した革新的高度化を提案する。2020年度は、共通読出系の開発制作を完了してALICE実験に導入した。 収集した大量のデータは地球規模の計算グリッドで処理する。2020年度も、計算グリッド拠点整備を継続して進めた。 併せて郡司がALICE実験全体の運用統括者を担った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自然界における物質の階層構造のうち、現在の宇宙に安定に存在する最小階層はハドロン層である。ハドロンを構成する素粒子であるクォークとグルーオンは、ビッグバン直後に強い相互作用の色荷が中和した状態に閉込られ、通常は単独で存在しない。しかし高エネルギー原子核衝突実験ではクォーク層(クォーク・グルーオン・プラズマ)を実現する。するとハドロン層との狭間で、カイラル対称性の自発的破れとその回復が動的に観測され得る。この破れは物質質量の99%を生成する物理機構である。また、この動的機構により、従来の安定な物質世界には存在しない新形態ハドロン励起状態の生成機構と内部構造の解明が期待できる。世界最高エネルギーでの原子核衝突を実現した欧州LHC加速器ALICE実験において、従来を遙かに超える高精度高統計測定により、これらの物理課題の解明を目指す。 研究期間内の確実な物理目標達成に向け、本研究の実施に必要なALICE実験高度化の基幹部分の開発建設を主軸として完遂した。
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今後の研究の推進方策 |
研究期間内の確実な物理目標達成に向け、本研究の実施に必要なALICE実験高度化の基幹部分の開発建設を2020年度までに完遂した。2021年度は、コロナ禍のため2022年度に延期した物理データ収集に向け 、検出器立上と物理解析準備を進める。 主飛跡検出器高度化においては郡司が大型ガス電子増幅器を担当する。新規前方検出器においては志垣が当該高度化計画の日本代表として検出器制御系の開発実装責任を担う。データ収集系高度化においては濱垣がALICE実験共通読出系開発を担う。グリッド計算拠点においては中條が筑波大学計算グリッド拠点責任者として、ALICE実験のデータ処理への貢献とともに、日本およびアジア地域の計算資源を供給するべく、計算能力、データ蓄積容量、ネットワーク速度など、各種資源の適切な配置と運用を司る。
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