研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
18H05404
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中村 隆司 東京工業大学, 理学院, 教授 (50272456)
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研究分担者 |
近藤 洋介 東京工業大学, 理学院, 助教 (00455346)
若狭 智嗣 九州大学, 理学研究院, 教授 (10311771)
栂野 泰宏 立教大学, 理学部, 助教 (20517643)
関口 仁子 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70373321)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 実験核物理 / 不安定核 / 3体核力 / 中性子クラスター / ダイニュートロン |
研究実績の概要 |
原子核階層の「セミ階層」を形成すると期待される「多中性子クラスター」、および階層をつなぐ鍵を握る原子核層特有の「力」の2つの研究に挑んでいる。 1)多中性子クラスターの研究: 中性子過剰核表面に出現が期待される「多中性子クラスター」の生成を目指している。R2年度は、6n系構造の候補核10He生成実験に向けた準備を進め、その基幹検出器の建設を進展させた。並行してダイニュートロン(2n系クラスター)の研究を進め、その一環として6Heの第一励起状態の2中性子崩壊の相関を調べる手法を開発し、この励起状態のダイニュートロン構造を初めて観測した。中性子ハロー核11Li, 19Bにおいてもダイニュートロン構造が観測され、それぞれ学術誌に発表し、プレスリリースも行った。 2)「力」の研究では: i)少数核子系プローブによる三体核力の研究、および(ii) (p,pN)反応のスピン観測量の完全測定による核力の精密化という2つの課題に取り組んでいる。 (i):少数核子系プローブによる三体核力の研究:3陽子・3中性子間の高精度測定を実現し、荷電スピン三重項三体核力を世界高感度でとらえることを目指してい る。R2年度は陽子-3He散乱のスピン観測量の実験値を高精度で得るために必須となる偏極3He標的の開発を進め、東北大CYRICで50MeVにおける偏極分解能測定とスピン相関係数測定のテスト実験を実施した。 (ii):(p,pN)反応のスピン観測量の完全測定による核力の精密化: 阪大RCNPにおいて、原子核中での核子・核子 (NN) 散乱に対応する陽子ノックアウト反応を2アームスペクトロメータ系で測定する。R2年度は、偏極効果を含むシミュレーション結果に基づいて、下流側多線式飛跡検出器 (MWDC) 2台を設計・製作した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)多中性子クラスターの研究:反跳陽子検出器の開発が進展し、全エネルギー検出器の基本性能のテストを終了した。並行して、19B,11Li,6Heにダイニュートロンの存在の証拠を示す論文を、それぞれPhysical Review Letter誌2篇、Physics Letters誌1篇に発表した。2中性子崩壊の相関を調べる解析手法を開発し、6Heの第一励起状態にダイニュートロン構造の証拠を見出した(博士論文研究)。 2-i)少数系プローブによる三体核力の研究:陽子・3He弾性散乱の高精度測定と核力をインプットとする厳密理論計算との直接比較から、同散乱は、従来の三核子系散乱とは異なる3核子力の情報が得られることが明らかになった。特に、スピン相関係数は、藤田・宮沢型、および荷電スピン三重項に敏感な三体力に関する観測量を予測することがわかってきた(博士論文)。また陽子・3He弾性散乱の偏極分解能のエネルギー依存性、およびスピン相関係数測定の検討は修士論文として纏められ、東北大学物理学専攻賞を受賞した。 2-ii)(p,pN)反応のスピン観測量の完全測定による核力の精密化:反跳陽子のスピン測定に向けて陽子検出器・偏極度計 (2nd-FPP) の開発を行なっている。入射陽子の偏極度は、シンチレータ内の炭素との弾性散乱イベントの左右非対称度から導出可能である。実験で測定できる非対称度から偏極度を導出する為には,有効偏極分析能と較正しておく必要がある。東北大学CYRICにて 80 MeV 陽子-炭素弾性散乱から得られる偏極陽子を2nd-FPPに入射し、シンチレータ中の炭素との弾性散乱イベントが分離出来ることを確認すると共に、シミュレーションと無矛盾な有効偏極分析能の値を得た。 以上、いずれの研究においても予想を超える成果が出ており、当初の計画以上に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
1)多中性子クラスターの研究:11Liの陽子準弾性散乱によって多中性子クラスター候補核10Heを生成する実験を行う。そのため、CsI(Na)検出器(CATANA)とシリコン飛跡検出器から成る反跳陽子測定装置の建設を引き続き進める。 2-i)少数粒子系プローブによる3体核力の研究:3陽子間力の高精度測定を実現し、荷電スピン三重項3体核力を世界最高感度でとらえるため、陽子・3He弾性散乱のスピン相関係数の完全測定に向けた準備を行う。実験値と厳密理論計算との比較から3体核力を精緻化する。並行して多核子系において主要成分となる荷電スピン1重項の三体核力を確定するため、重陽子・陽子弾性散乱測定に向けた偏極陽子標的開発を進める。 2-ii) (p,pN)反応スピン観測量の完全測定による核力の精密化:阪大RCNPにおいて、原子核中での核子・核子 (NN) 散乱に対応する陽子ノックアウト反応を2アームスペクトロメータ系で測定する。2核子を同時測定することにより核内核子の軌道を同定すると共に、有効密度が制御できる1s軌道に対して後方陽子のスピン完全セットを測定する。前方陽子のデータと組み合わせ、核内NN散乱の散乱振幅の世界初観測・決定を目指す。次年度には制作した下流側多線式飛跡検出器 (MWDC) を導入し、高速読み出しシステムと組み合わせて陽子偏極度計を完成させると共に、フルシステムに対するビームテストを行う。
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