研究領域 | 量子クラスターで読み解く物質の階層構造 |
研究課題/領域番号 |
18H05405
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高橋 義朗 京都大学, 理学研究科, 教授 (40226907)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
|
キーワード | 冷却原子 / フェッシュバッバ共鳴 / エフィモフ3体 / エルビウム原子 / リチウム原子 |
研究実績の概要 |
極めて高度なレベルに達している冷却原子系の制御技術のなかでも、特に、原子間の相互作用を磁場により任意かつ精密に実時間制御するフェッシュバッハ共鳴法により、様々な可能性が拓かれつつある。本研究では、冷却原子系として極めて大きな質量比を有するエルビウムとイッテルビウム、およびリチウムの超低温原子混合系を実験的に生成し、その特異な性質を実験的に解明することにより、クラスター階層の物理の理解を深化させることを目標とする。特に、まず、重原子と軽原子間の相互作用を磁場により制御するフェッシュバッハ共鳴法を開発し、次に、「普遍的なクラスター状態」としてのエフィモフ3量体を観測しエネルギー構造の解明を行う。これらにより、階層をつなぐ共通物理現象の理解を深めることに貢献する。 この研究目的に向けて、まず、昨年度において開発した、重いエルビウム原子と軽いリチウム原子、さらにイッテルビウム原子の量子気体混合系の生成用に特化してデザインおよび作成した、ハイブリッド型オーブンの性能を評価し、これも昨年度に準備した、エルビウム原子冷却用の光源を用いて、エルビウム原子の冷却実験を進めた。401nmの波長の光源をゼーマン減速および、横方向冷却に用いて減速・冷却効果を確認した。また、583nmの光源を用いて、エルビウム原子の磁気光学トラップに成功した。583nmの光源の周波数安定化は、超低膨張ガラスを用いた共振器に高速フィードバックすることにより行い十分な安定性であることを確認した。さらに、レーザー冷却されたエルビウム原子を光トラップに移行して蒸発冷却を行い、500nKまでの冷却に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である、階層を横断したエキゾチックな物性現象の解明に向けて、極低温原子集団、特に、巨大な質量比のエルビウムとイッテルビウム、およびリチウムの超低温原子混合系を実験対象として研究を推進した。まず、昨年度において開発した、重いエルビウム原子と軽いリチウム原子、さらにイッテルビウム原子の量子気体混合系の生成用に特化してデザインおよび作成した、ハイブリッド型オーブンの性能を評価し十分な性能を示すことを確認した。さらに、これも昨年度に準備した、エルビウム原子冷却用の光源を用いて、エルビウム原子の冷却実験を進めた。特に、802nmの高出力光源を準備してその第2高調波を発生させることにより生成した401nmの波長の光源をゼーマン減速および、横方向冷却に用いて減速・冷却効果を確認した。また、583nmの光源は、1168nmの候主力半導体レーザーを導波路型第2高調波発生器で生成して、エルビウム原子の磁気光学トラップに成功した。583nmの光源の周波数安定化は、超低膨張ガラスを用いた共振器に高速フィードバックすることにより行い十分な安定性であることを確認した。レーザー冷却されたエルビウム原子を光トラップに移行して蒸発冷却を行い、500nKまでの冷却に成功した。 本研究において研究目的に掲げたテーマは、理論的研究による検討・評価が極めて重要であるため、本新学術領域の理研パスカルネドン氏や、領域外の東北大遠藤氏らの理論研究者と密接なる議論を行いながら進めた。さらに、アルファ核が、我々が最近プラケット光格子中で実現した SU(4)シングレット状態に対応するという新たな知見について本新学術領域の金田氏らの理論研究者と議論を重ねた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、以下について集中的に研究を進める。 本研究の目的である、階層を横断したエキゾチックな物性現象の解明に向けて、極低温原子集団、特に、巨大な質量比のエルビウムとイッテルビウム、およびリチウムの超低温原子混合系を実験対象として研究を推進する。まず、昨年度において開発した、重いエルビウム原子と軽いリチウム原子、さらに重いイッテルビウム原子の量子気体3種混合系の生成用のハイブリッド型オーブンを用いて、まず、エルビウム原子のボース・アインシュタイン凝縮をめざす。それとともに、2種および3種の超低温混合気体を生成し、同時光トラップを目指す。これにより、巨大質量比の原子混合系でのフェッシュバッハ共鳴の観測が可能になるので、これを速やかに系統的に行う。 一方、イッテルビウム原子とボース粒子のリチウム7原子との混合系で、新しいポーラロンバブル相の出現が理研のD班のパスカルネドン氏により理論的に指摘されている。また、異なる結果を予想する別の理論も存在する。これを、超高分解能レーザー分光を駆使した緩和測定により、明らかにする。 本研究において研究目的に掲げたテーマは、理論的研究による検討・評価が極めて重要であるため、新たに研究分担者として加わった、理論研究者である東工大西田氏らと密接なる議論を行いながら進める。
|