計画研究
1万個の細胞がcAMPパルスを臨界成長させる系では、いち早くcAMPパルスを開始するリーダー細胞(シンギュラリティ細胞)と、その信号を増幅成長させるフォロアー細胞(シンギュラリティ機構)が見出される。集団のわずか1%程のこれらの細胞が、集団全体の信号伝達動態を大きく左右することを検証するには、リーダー細胞とフォロアー細胞、そしてこれらに従属的なシチズン細胞の集団内組成を任意に再構成し、臨界に与える影響をアッセイする社会操作実験を行う必要がある。平成30年度は、リーダー細胞とフォロアー細胞を識別できる光変換型cAMP指示薬の開発を試みた。赤色cAMP指示薬(R-FlincA)の蛍光レポーター部分を光変換型蛍光タンパクに置換するため、mEOS2の円順列変異体15種とR-FlincA(PKA)への挿入部位13種の組み合わせとして合計195種類の候補指示薬を作成した。これらを導入したHEK293細胞をFSK刺激することで、顕著な蛍光強度の減少を示すものを選別した。さらにcAMP存在下で刺激光照射(405nm)すると、緑色蛍光が赤色蛍光に不可逆的に変化する一方、cAMP非存在下では光応答性を持たないものを同定し、GR-FlincA(green to red fluorescent indicator for cAMP)と名付けた。HEK293細胞での機能検証の結果、GR-FlincAはcAMPに対して100%の信号変化率を持つこと、光活性化コントラストがcAMPの有無で2.5倍変化することを明らかにした。また、ゲノム編集を活用して細胞分裂回数のメモリーモジュールの開発を進めた。分子内の異なる3箇所で分断させたsplit型Cas9と、G1/G0期に安定化されるCdt1、S/G2/M期で安定化されるGeminin1との融合タンパク質とを連結させた融合タンパク質発現システムを6組み合わせ作成し、HEK293T細胞で発現させ、細胞分裂と連動してCas9酵素が活性化される候補を同定した。
2: おおむね順調に進展している
GR-FlincAのプロトタイプの開発に成功し、成果の一部を学会発表した。また、一連の大規模データ解析の技術障壁となっていた一細胞トラッキングについて、機械学習を用いた自動化を進めるなど解決の目処が立っている。また、Split型Cas9と、細胞周期と連動して安定化・不安定化されるタンパク質とを連結させた融合タンパク質発現系、および、Cas9活性を簡易的に評価できるレポーター系の構築が完了している。これらの成果から、研究は「概ね順調に進展している」と判断できる。
研究を推進するため、各計画班との連携を強化する。特に、リーダー細胞の検出を容易にするため、永井班と共同でH30年に開発したGR-FlincAの機能向上を図る。また、1細胞ピックアップ技術を有する城口班と共同で、リーダー細胞の回収分析を行いその分子特徴を見いだす。最も容易なケースとしてはスイッチとして機能する遺伝子の発見が想定されるが、最も困難なケースとして分子的な特徴を見出せない可能性も考慮する。例えば細胞の大きさや分裂の回数などのケースである。この対応として、大浪班小松崎班と共同で形態などの画像データからバイアスなしにリーダー細胞の起源としての過去の特徴を見出す方法を検討する。また、細胞分裂回数のメモリーモジュールの開発を堀川班分担の竹本らと継続して行う。竹本班の具体的な方策として、split型Cas9-Cdt1/Geminin1の最適化を進めるとともに、分裂回数のメモリーを実現するための標的人工遺伝子を検討する。併せて、開発するメモリーモジュールを効率的にマウスに組み込むためのゲノム編集マウス作製法を開発する。
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