これまでに1万細胞中10細胞ほどのリーダー細胞が信号伝達の起点として機能すること、これらは飢餓処理後4-6時間の間に出現することを見出していた。R4年度には、リーダー細胞が出現するメカニズムを解明するため、一細胞操作による介入実験を行なった。リーダー細胞を出現させるメカニズムとしては、確率的な遺伝子発現変化、環境、細胞内在的な違いなどさまざまな可能性が考えられた。これらの可能性を区別するため、細胞内在的な性質が同一と見做せる細胞をペアで取得し、同一ないし異なる環境下で発生させた場合のパルス開始タイミングをペア間で比較解析した。具体的には、栄養培地中で分裂した細胞ペアを一細胞分取システムで同定・回収し、レシピエント飢餓環境下で発生させ、その後リーダー・フォロワー・シチズン細胞のいずれに分化するのか検討した。この結果、娘細胞ペアは同じタイミングで信号開始することから、細胞分化は確率的な遺伝子発現変化や発生環境に依存しないと考えられた。一方で、パルス開始のタイミングは飢餓処理時の細胞周期に強く依存したことから、細胞内在的な性質が分化パターンを制御していることが示唆された。この現象に関わる遺伝子を探索するため、A01-4班と共同で1cell RNA sequencingを行ったところ、リーダー細胞を生じるための責任遺伝子の候補を120遺伝子同定した。細胞周期に依存して変動するこれらの遺伝子が、リーダー細胞を生じる分子機構の一端を担うことが明らかになった。これら候補遺伝子の機能検証のため、分担者と共同で細胞分裂回数カウンティングシステム開発を行なった。細胞用期特異的に発現変動する遺伝子と連動してゲノム編集機能が再機成されるシステムが完成し、細胞周期が1回進行するごとに異なる変異をゲノムに導入することに成功した。以上の結果により、リーダー細胞の細胞周期依存的な発生機構の全容を解明するための解析基盤が全て整った。
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