精神疾患等の脳疾患は、少数の細胞群の活動異常の蓄積に環境要因等が加わるという、シンギュラリティ現象の破綻により引き起こされる可能性が考えられるが、少数の細胞群の機能異常がどのように脳の広い領域に影響をあたえ、個体の精神活動を変化させるのかは不明である。これらの課題に取り組むため、本年度は以下の研究を実施した。 1.疾患モデルマウスのシンギュラリティ細胞の特性解析 これまで精神的なストレス負荷後の全脳全細胞解析により、ストレスによる不安応答を制御するごく少数の細胞集団を同定している。本年度は、ストレスの強度により活性化する神経細胞が変わり、脳全体に広がる情報が変化することを見出した。 2.シンギュラリティ細胞や脳疾患の起点の解析のための基盤技術開発 昨年度までに、iPS細胞を用いた3次元細胞培養系の基盤技術開発を実施してきた。開発した技術を3q29欠失症候群患者および健常者由来のiPS細胞の培養に適用し、それぞれの3次元細胞を調製し、表現型を観察した。その結果、PAX6やTBR2などの神経細胞の初期発達マーカーを指標にした実験系では、患者と健常者間で明確な差異は観察されず、患者由来の神経幹細胞の初期分化に大きな異常がないことが示唆された。また、これまでに開発してきた技術を用いて培養した細胞では、CTIP2やSATB2といった成熟神経細胞マーカーの発現量が低いことが示唆されたため、さらなる技術開発のために細胞生物学的な実験を推進した。その結果、iPS細胞を用いた3次元培養細胞とマウス成熟脳由来の神経細胞のmRNA発現量を比較したところ、CaMKIIシグナルやMAPKシグナルの活性化レベルが、iPS細胞由来の細胞で低いことを示唆する結果を得た。
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