前年度までに、PD-1阻害により特定の自己反応性T細胞が特に強く活性化されて自己免疫疾患を惹起すること、発現誘導に強い抗原刺激を要する遺伝子ほどPD-1による抑制を強く受けることを明らかにした。また、T細胞の抗原親和性が高いほど、遺伝子発現誘導に要する抗原の量が少なく、PD-1による抑制を受けにくいことを見出した。そこで、T細胞の抗原親和性以外に、T細胞活性化における遺伝子発現誘導の効率ひいてはPD-1に対する感受性を変化させ得る要因を探索し、複数同定した。また、これまでに見出している抑制性免疫補助受容体によるT細胞の新規制御機構について、ライブイメージングデータをもとに細胞の挙動を解析する手法を開発し、抑制の程度を定量的に解析した。さらに、領域内の共同研究により、培養中のT細胞および抗原提示細胞を顕微鏡観察下で1細胞ずつ分取し、各細胞のイメージング情報と網羅的な遺伝子発現情報を統合的に解析する手法を開発した。 マウス皮下に乳癌細胞株EO771を移植する腫瘍形成実験系において、癌細胞を移植してから1-2週間後に、センチネルリンパ節である鼠径リンパ節では抗原特異的T細胞の活性化・増殖が大幅に低下した。この現象にリンパ節ストローマ細胞の変容や抗原特異的B細胞の関与を示唆する知見を得た。癌細胞増殖により、時間経過とともに所属リンパ節において免疫抑制環境が形成されると考えられる。また、癌組織とリンパ節をつなぐリンパ管がどのような経路で癌抗原を輸送し、リンパ節で補足・集積するのかという問題に取り組み、一連の成果が得られた。したがって、癌と免疫系という2つのシンギュラリティ現象のせめぎ合いにおいて、リンパ節を中心とした複雑な組織環境が深く関わっていることが推測される。
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