研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
18H05419
|
研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金原 数 東京工業大学, 生命理工学院, 教授 (30282578)
|
研究分担者 |
中西 和嘉 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主任研究員 (20401010)
ラッペン ゲナエル 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (60812576)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
|
キーワード | 分子機械 / イオンチャネル / イオン輸送 / 気液界面 / オリゴエチレングリコール / STM / 分子ローター |
研究実績の概要 |
(1)交互両親媒性マルチブロック分子:前年度に引き続き,疎水部に双極子モーメントが生じるような非対称構造を有する分子について詳細な検討を行い,この分子が電位とリガンドの2種類の刺激に対し応答性を有することを見いだした。また,疎水部にカチオン性基を導入した分子がアニオン輸送能を有することを見いだした。これらの分子の二分子膜中での挙動について,C02-1池口グループとの計算化学的解析を用いた共同研究により,膜輸送している複合体が2量体構造をとっていることが強く示唆された。 (2)配座変化がCDスペクトル変化として検出できるキラルビナフチル誘導体を用い,気水界面における分子の配座変化を追求してきた。該当年度では,気水界面に並んだ脂質中で,脂質とは異なるターゲット分子(=キラルビナフチル誘導体)の配座が力学刺激や脂質構造により制御できることを見出し,その成果を論文報告した。 (3)前年度に引き続き,GFPおよびBCAIIとオリゴエチレングルコール鎖のハイブリッド型分子の構築を検討し,種々の長さのオリゴエチレン鎖を導入したハイブリッド型分子を得ることに成功した。さらにキネシンとの複合化にも成功した。 (4)分子ギアやナノカーをはじめとする分子マシンが金属基板表面上で発現する分子運動について、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いた単一分子計測・操作により評価した。具体的には、星型構造を有する複数の分子ギアがAu(111)表面上で相互に噛み合うことで、歯車運動を示すことを明らかにした。また、異なる大きさの双極子モメントを有するナノカーを合成し、そのAu(111)表面におけるSTM観測に成功した。また、フォトクロミック性のブレーキ機構を備えた分子モーターの設計・合成を行い、溶液中において、光照射により分子の回転運動のON/OFF制御が可能であることを見出し、結果を国際科学論文にて報告した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 前年度に引き続き,交互両親媒性マルチブロック分子について,イオンポンプ構築に向けた重要なステップである,方向性の制御に成功した上で,入力刺激の多様化に成功した。また,輸送されるイオン種の種類も大幅に増やすことができた。さらに,関連した領域内連携研究も順調に進行しており,特にC02-1班との連携研究では,独自にシミュレーション用パラメータを決定することで,実験的に観測が難しい分子の動的挙動について極めて興味深い知見を得ることができるようになった。 (2)分子が高配向する2次元気水界面を利用し,力学的エネルギーを分子構造(配座)・運動(配座変化)へ効率よく変換させることを目指している。これまでに,分子配座や,その変化に伴う運動を検出するために,キラルビナフチル誘導体や蛍光ローター分子をクロモフォアとして用いてきた。気水界面で利用するために両親媒性化した分子のみならず,脂質マトリックスを用いることにより,両親媒性を有さない分子の配座制御も可能となった。 (3)金属基板上における分子間歯車運動を実現するための構成要素となる分子マシンとして、ダブルデッカー型の分子ギアを新規に設計し、その合成を検討した。また、ナノカーについては、STM探針と金属基板間に生じる電場を活用した単一分子操作法について検討を行なった。 (4)複数刺激への応答性は発動分子素子開発において重要な課題であるが,このような性質を持つ分子の開発に成功した。 以上の成果に加え,A01-2, A01-3, C01-1, C02-1, C02-2班をはじめとする計画班,公募研究メンバーとの間に複数の共同研究を実施している。これらを総合的に考慮し,おおむね順調に推移していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)交互両親媒性マルチブロック分子については,脂質環境のキラリティーが与える影響について検討する。触媒リガンド型分子については,前年に引き続き,実際に有機金属触媒にリガンドとして導入し,得られた錯体の反応性を明らかにする。さらに,触媒反応の進行に伴うダイナミクスの変化やイオン輸送に与える影響について検討する。また,C02-1班との連携により計算化学的手法によるイオン透過機構の解明をすすめるとともに,C01-1班との連携により一分子の動的挙動を観察する。 (2)これまで,分子配座観測や制御が比較的容易な二次元場として主に気水界面を利用して研究を進めてきた。力学的エネルギーを用いた配座制御をより普遍的なものにすべく,これまでの知見を活かし,配座検出や制御の適用範囲を広げ,金属表面や部分的に配向したポリマー材料中での分子配座検出・制御を進める。 (3)分子ギアについては、その歯車運動の伝搬効率の向上を指向し、新規分子構造を有する分子ギアの設計・合成を行う。具体的には、複数の大きなパネル型官能基を備えた分子ギアや、より歯数の多い分子ギアの合成を検討する。また、ナノカーについては、STM探針と金属基板間に生じた電場を活用した単一分子操作法について検討を行う。 (4)前年度に引き続き,GFP及びBCAIIに加えダイニン,キネシン等の生体発動分子を対象としたハイブリッド分子を構築し,その性質を明らかにする。 (5)前年度に引き続き,A01-2, A01-3, C01-1, C02-1, C02-2班との共同研究を続けるともに,新たな研究連携を開始する。
|