研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
18H05424
|
研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
飯野 亮太 分子科学研究所, 生命・錯体分子科学研究領域, 教授 (70403003)
|
研究分担者 |
笠井 倫志 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (20447949)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
|
キーワード | 1分子計測 / 分子モーター |
研究実績の概要 |
(1)マルチカラー高速1分子イメージングを実現した。直径40 nmの金ナノ粒子、30 nmの銀ナノ粒子、30 nmの金銀合金ナノ粒子(金:銀=1:1)の散乱光を選択的に捉えるため、多色全反射暗視野顕微鏡を開発した。照明光学系はそれぞれの共鳴波長に合致したレーザー(404 nm, 473 nm, 561 nm)で構成し、3種のナノ粒子を同時に照明することができる。また、検出光学系にスリットを開いた分光器を用い、各波長の散乱像を同時に結像可能にした。得られた散乱像のシグナル/ノイズ比は高く、100マイクロ秒の時間分解能で2 nm、1ミリ秒の時間分解能で0.6 nmの位置決定精度を達成した。 (2)リニア分子モーターダイニンの高速高精度1分子計測を達成した。微小管上を正確に一歩ずつ前進するリニア分子モーターキネシンとは異なり、その歩行運動は前進だけでなく後退や横方向への動きを多く含む、酔っ払いのような歩き方であることが確認された。ダイニンの歩幅は、従来のミリ秒レベルの低速1分子計測で報告された値よりも小さく、レールである微小管上の結合部位間の最小間隔と同等であることを初めて明らかにした。本研究の成果は、リニア分子モーターの歩行運動の仕組みの多様性を明らかにし、人工分子でリニアモーターを実現する上で重要な指針を与えた。 (3)A01-1班の金原らが合成した膜貫通型新規人工チャネル分子の蛍光1分子観察を行い、退色回数から、刺激前の分子は最大6量体程度の安定会合状態として存在することが分かった。B1公募班・森本教授らが合成した、蛍光スイッチ分子・ジアリールエテンを観察し、蛍光1分子観察に用いることができるか検討した。金コロイドの蛍光観察を行い、既存の蛍光1分子観察法と組み合わせる、非褪色性プローブとして用いることが可能か検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.金ナノ粒子、銀ナノ粒子、および金銀合金ナノ粒子の共鳴波長に合わせたレーザー光を用いた多波長全反射暗視野照明光学系、および分光器を適用した全波長同時検出光学系を開発し、金ナノ粒子、銀ナノ粒子、金銀合金ナノ粒子を識別して同時に高速、高精度イメージングすることに成功した(Ando J ACS Photonics 2019)。 2.開発した1分子オングストローム計測法を生体分子モーターに適用した。二本足のリニア分子モーターダイニンは従来考えられていたよりも小さな歩幅でふらふら歩くことを明らかにし、人工リニア分子モーターの設計指針を与えることに成功した(Ando J Sci Rep 2020)。 3.膜貫通型新規人工チャネル分子の蛍光1分子観察により、退色回数から刺激前の分子は最大6量体程度の安定会合状態として存在することを明らかとした。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、開発した1分子計測法の改良を継続しつつ、生体・人工・ハイブリッド発動分子の計測に取り組む。 (1) 金属ナノプローブ1分子計測法の開発(飯野):A01-1班の金原、公募班の内橋らと協力し、生体分子や人工分子からなるリンカーを用いて多量体化したリニア発動分子キネシンの運動特性や協調性、および化学力学共役機構を解明する。 (2) 金属ナノプローブと蛍光の1分子複合計測(飯野):異方的な環境場である生体膜でエネルギー変換を行う回転型生体発動分子V-ATPaseの1分子複合計測を行う。V-ATPaseは、回転運動を介してATPの化学エネルギーをイオンの電気化学ポテンシャルに変換する。回転運動とイオン輸送の素過程を可視化してその仕組みを明らかにする。さらに、A01-2班が創成する非天然型V-ATPaseの1分子複合計測を行う。 (3) 蛍光複合計測による1分子動態観察(笠井、飯野):生体膜中に組み込んだ、A01-1班の人工イオンチャネルについて、リガンド刺激による会合体の変化を調べて動作機構を解明する。イオンプローブと同時観察し、ダイナミックな会合体形成や構造変化が物質輸送に繋がる仕組みを解明する。蛍光複合観察に適した新たな蛍光分子やラベル法の探索も引き続き行う。
|