研究領域 | 発動分子科学:エネルギー変換が拓く自律的機能の設計 |
研究課題/領域番号 |
18H05426
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
池口 満徳 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (60261955)
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研究分担者 |
高橋 栄夫 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (60265717)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学シミュレーション / NMR解析 / タンパク質構造 / 構造ダイナミクス |
研究実績の概要 |
本研究は、スーパーコンピュータ等を用いたMDシミュレーションとNMR実験を相補的に活用し、理論・計測の統合によって発動分子の構造ダイナミクスと機能発現を結びつけ、新規機能獲得に向けた合理的分子設計法を確立することを目的としている。2018年度には、生体発動分子設計の基盤として分子認識機能設計に注目し、TrkAという生体分子を研究対象モデルとして、それと特異的に結合するNGFの認識メカニズムを理解し、新規にTrkAに強く結合する分子を合理的に設計することを目指した。まず、TrkAに結合するTP1ペプチドとTrkA受容体NGF結合ドメイン(TrkA-d5)のNMR相互作用解析を実施した結果、TP1ペプチドは、 TrkA の“特異性パッチ”と呼ばれる領域と結合することが示された。MDシミュレーションでは、TrkA-d5とNGFのN端ペプチド(Npep)複合体、および、TrkA-d5とTP1ペプチドとの複合体の計算を実施した。その結果、TrkA-d5/Npep複合体では、Npepの結合構造が安定しなかったのに対し、TrkA-d5/TP1複合体では、TP1が一つの結合ポーズに収斂する傾向が観察され、実験と整合する結果を得た。 次に、新学術領域のA01-1班と連携し、人工発動分子であるイオンチャネルについてのMDシミュレーション研究を開始した。人工イオンチャネルの分子モデルを計算機中に構築し、MD計算に必要な力場パラメータを設定した。そして、脂質二重膜中に配置し、構造ダイナミクスを観察した。多量体のサブユニット数を変化させ、その構造の安定性を検討した。さらに、B01-2班と連携し、微小管を構成するチューブリン・キネシン複合体の分子シミュレーションの検討を開始した。また、C01-2班との連携研究により、発動膜タンパク質である好熱菌由来ロドプシンを対象とした溶液NMR解析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、MDシミュレーションとNMR計測の連携によって、TrkA受容体の分子認識機構に着目し、その結合ペプチドの設計を第一目標にしていた。この研究は順調に進み、TrkA受容体NGF結合ドメイン(TrkA-d5)と結合ペプチドのMDシミュレーションの実施、及び、NMR解析に向けたTrkA-d5発現・精製法の確立を行った後、結合ペプチドとのNMR相互作用実験を実施することができた。 さらに、本班の強みであるMDシミュレーションとNMR計測を活かし、新学術領域の他班との連携研究をスタートさせた。A01-1班にて設計された人工発動分子の機能発現モデルについてMDシミュレーション研究を実施し、いくつかの多量体の脂質二重膜中の構造ダイナミクスが明らかにした。また、B01-2班と連携し、微小管を構成するチューブリン・キネシン複合体に力を加えたときの応答の研究を検討している。一方、C01-2班との連携研究では、熱安定性の高い発動膜タンパク質を対象として、高分解能な溶液NMR解析が実施可能な状況となってきた。これらの連携研究は、新学術領域が始まってから開始したものであり、当初の計画以上に進展していると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
TrkA受容体の研究では2018年度に実施したMDシミュレーションの結果をもとにして、結合分子の設計に入る。まずは、ドッキング計算などで、MDシミュレーション結果が再現できるかを検討する。その後、結合分子に変異を導入し、結合能が向上する変異をドッキング計算によって探索する。その設計した分子について、再度MDシミュレーションを実施し、安定に結合できているかどうかを確かめる。ドッキング計算より精度の高いMDシミュレーションによる結合自由エネルギー計算も試行し、結合能の向上を確かめる。そこで結合能の高い分子が見出されたら、NMR実験に情報を提供し、実験的検証を行う。実験的検証のために、TrkAのNGF結合ドメイン(TrkAd5)にジスルフィド結合を導入した安定化変異体を作製する。均一安定同位体標識TrkAd5を調製し、NMRシグナル帰属を完了した後、TrkAに結合することが知られているリガンドに対するNMR相互作用実験を実施し、設計分子の実証実験のための解析基盤を整える。 次に、A01-1班と連携し、人工発動分子であるイオンチャネルについてのMDシミュレーション研究を継続し、リガンドが結合することでイオン透過が起こるメカニズムを明らかにする。さらに、B01-2班と連携し、微小管を構成するチューブリン・キネシン複合体に摂動力をかけたときの応答をMDシミュレーションによって解析し、B01-2班の実験結果と照合することで、その分子メカニズムを明らかにする。また、C01-2班との連携研究により、昨年度までに高分解能の溶液NMRスペクトルが得られるようになった好熱菌由来ロドプシンについて、その光発動メカニズムおよび熱安定化機構の解明に向けたNMR構造解析進める。
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