研究実績の概要 |
本研究では,発動分子の設計指針をエネルギー論に基づいて構築するとともに,発動分子の集団運動制御および集団運動によるマクロな機能の発現のための理論・実験基盤を構築する.発動分子が集まって協働的な集団として振舞うことで,1分子では実現できないマクロな機能を発現する.そのためには集団運動の制御法を確立することが必要である.機能発現の可能性を探索するために,生体分子モーターのキネシンと微小管, ミオシンとアクチン骨格からなるアクティブゲルを対象にして秩序形成や運動や変形といったダイナミクスが現れる物理学的メカニズムを解明する.さらに, バクテリアの集団運動を境界形状で制御する幾何学的な関係式を明らかにしている.これをキネシン-微小管の集団運動の系にも発展させることで, 発動分子のマクロな機能発現の共通性と多様性を明らかにする.様々な発動分子の集団挙動を支配する力学原理をもとに,発動分子で自律的に動作する機能的デバイスの設計に関する共同研究にも着手している.
また,生体回転分子モーターであるF1-ATPaseは,極めて効率的に動くことが知られている.高いエネルギー変換効率の人工発動分子を実現するには, F1-ATPaseが実現している高効率のエネルギー変換機構を参考にし,さらに,エネルギー変換効率を計測して, その結果を分子設計にフィードバックするという戦略的なアプローチが肝心である.このために,非平衡統計力学に立脚した計測法を生体分子モーターに応用する.本年度は, これらの研究を推進するため, 生体分子モーターの精製系の構築, 回転電場法システムの改良, 他の研究グループとの共同研究に着手した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体発動分子の集団挙動に関して,キネシン分子モーターと微小管骨格が形成する集団渦構造を制御する幾何学的関係を見出した.これまでに得ているバクテリア集団運動との違いを比較し,分子モーター系に特有の集団運動の幾何学的特徴を理論的にも説明することができている.さらに,ミオシン分子モーターとアクチン細胞骨格がつくるアクティブゲルが細胞区画の対称性を力学的に決定する機構を実験および理論モデルから明らかにした.この成果の発展として,細胞運動や細胞変形のアクティブゲルモデルの構築にも成功している.更なる展開として,(i) 光刺激による集団運動の制御, (ii)ソフトマターにおける流動現象の解明と制御, についても計画通り共同研究に着手している,
次に,生体分子モーターF1-ATPaseが高効率に運動するメカニズムを明らかにすることを目指し,本年度はその基礎固めを行った.特に,(i)精製系を構築し,野生型F1-ATPaseの精製を行った.また,高精度トルク測定に向け,回転電場法システムおよび解析法を改良した.(ii)分子内の「エネルギーの流れ」を可視化するために,分子動力学の専門家と共同研究を開始し,研究の流れを確認した.さらに,(iii)F1-ATPaseのエネルギー論について,海外のグループと共同研究に関する議論をスタートした.
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