リスク下の意思決定において、人はしばしば古典的な利得期待値最大化理論では説明できない行動をとることが報告されている。 こうした「非合理的」な行動を説明しようとする研究が行われてきたが、従来のモデルは神経科学的な基盤が不十分であったり主観的な構成要素を必要とするなどの問題点が指摘されていた。一方、脳科学では、神経細胞の示す報酬予測誤差活動、意思決定に関連する脳内シミュレーション、行動決定に感情が与える影響などが研究されてきた。我々は、これらの脳科学の知見から着想を得て、脳内シミュレーション時の報酬予測誤差に基づいて行動を選択する意思決定モデルを提案した。このモデルは、特定の行動をとった場合の帰結を複数のステージに渡る脳内シミュレーションを用いて動的に計算するもので、累積的な報酬予測誤差に基づいて意思決定を行うことを提案している。各ステージの報酬期待値はそれまでのステージの脳内シミュレーションの結果に依存しており、モデルは予想外の報酬が得られる行動を優先し、がっかりする行動を忌避する傾向を示す。我々は、このモデルを数理的に解析した結果、プロスペクト理論様のリスク指向性、経験的に知られているブラックジャックギャンブルにおける非合理的な行動、曖昧性を回避するEllsbergパラドックス、同じ報酬結果となる事象の区別が意思決定に影響を与えるBirnbaum問題などを統一的に説明できることを示した。
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