研究領域 | 新しい星形成論によるパラダイムシフト:銀河系におけるハビタブル惑星系の開拓史解明 |
研究課題/領域番号 |
18H05441
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
百瀬 宗武 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (10323205)
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研究分担者 |
安井 千香子 国立天文台, TMTプロジェクト, 助教 (00583626)
野村 英子 国立天文台, 科学研究部, 教授 (20397821)
武藤 恭之 工学院大学, 教育推進機構, 准教授 (20633803)
本田 充彦 岡山理科大学, 生物地球学部, 准教授 (40449369)
長田 哲也 京都大学, 理学研究科, 名誉教授 (80208016)
木野 勝 京都大学, 理学研究科, 助教 (40377932)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 電波天文学 / 光学赤外線天文学 / 理論天文学 / 惑星起源・進化 / 原始惑星系円盤 |
研究実績の概要 |
原始惑星系円盤のALMA観測では,分子輝線のALMA大規模観測により,円盤内の重元素比分布などを明らかにした。この他,個別天体については,データが少なかった低質量天体 ZZ Tau IRS 周囲に,非常に明るいリング構造を持った円盤を見出した。また,TESS のライトカーブ解析から得られた新たな若い星の候補天体についてのフォローアップ観測を行い,サブミリ波の放射があることを初めて確認した。 円盤の水を探求する方向性では,Subaru/IRCS L-band偏光モードによる星周環境における水氷の観測を行った結果,中質量の若い星HD142527 周りの原始惑星系円盤散乱光のL-band低分散スペクトルを初めて取得し,3.1ミクロンにおける水氷フィーチャーを分光的に確認した。また,偏光スペクトルから氷の存在量が標準モデルよりも円盤表層で低下している可能性が示唆された。さらに,将来のスペース赤外線天文衛星においてスノーライントレーサーとなりうる水蒸気輝線の観測の検討を行い,成果を取りまとめた。 岡山せいめい3.8m望遠鏡のための新装置開発では,近赤外偏光撮像装置のクライオスタット組み立てと真空試験を行った。また,その中のオフナー・リレー光学系の素子の検査・組み立てと軸合わせなどの光学試験を開始し,次年度の望遠鏡への取り付けテストに向けて調整を行った。低金属環境下にある星団中での惑星形成についても研究を進めた。中間赤外線装置で最も高感度なSpitzer望遠鏡/IRAC 撮像器のアーカイブデータを利用し,銀河系内で最も金属量の低い星団Sh 2-208の測光を行った。そして約40個のメンバーをおよそ1太陽質量の検出限界で検出し,中間赤外線でトレースされる円盤を保持する星の割合を初めて導出した。この結果から,ほぼ同年齢の太陽金属量環境下でのものと明確な違いが見られないことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型感染症拡大の影響で予算執行を繰り越した上で実施期間を延長したものの,実施内容については概ね,当初の予定通り,進捗した。まず第一の柱である,ALMAを用いた円盤高解像観測については,ALMA Large Project である「Molecules with ALMA at Planet-forming Scales (MAPS)」により,円盤ガスでは酸素に対して相対的に炭素が多く存在しているという点を初めて明らかにした。これは,計画研究A03, B03が研究に取り組んでいる惑星大気の起源を考える上で,初期条件の一つを与える,重要な成果と言える。ダスト連続波の高解像度観測でも,新たな知見が順調に得られてきている。 第二の柱である円盤の水を探求する研究のうち,水蒸気に関しては,新型感染症拡大のためALMA観測が1年停止した影響を受けたものの,将来のスペース赤外線観測の可能性に対する検討を通じて,円盤ガス化学モデルの知見を深めることができた。また,この研究で立ち上げたSubaru/IRCS L-band偏光モードについても,1天体について予定通り,論文成果を得ることができた。 第三の柱である星団観測についても,新型感染症拡大で一定の制約があったものの,光学系素子の試験や軸合わせなど,京都大学吉田キャンパスで実施できる作業を確実に行い,2022年3月までに望遠鏡への取り付けテストに向けたテストを完了させた。低金属環境下での星・惑星形成についても,上で述べたSh 2-208における円盤割合の導出で成果を上げたほか,JWSTやALMAにおける新たな領域での観測準備も順調に進んだ。以上から,進捗状況の評価は「概ね順調に進展している」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
本計画研究では,円盤観測を大テーマに,(1) ALMAを用いた円盤高解像観測,(2) 円盤内での水の振る舞いの探求,(3) 低金属環境下における星団観測とそれを実施するための岡山せいめい3.8m望遠鏡のための新装置開発,以上3つの柱を据えて活動を進めてきた。残された期間は,これまでの成果を完成させ,取りまとめる期間となる。ALMAを用いた円盤高解像観測では,少数の円盤について超高解像度・高精度な観測や解析を引き続き行うとともに,既に取得済みのデータに対しても適用可能な,実効的な解像度を上げられる新解析手法の開発についても取りまとめを進める。円盤の水については,ALMA観測と並行して,スノーライン近傍における物質進化・ガス化学組成の理論研究をより精緻化させ,今後の電波・赤外線観測に対する方向性の提案や惑星大気分野との融合が可能となるような成果の取りまとめを意識する。星団観測については,まず,JWSTやALMAをはじめとする様々な装置を用いた銀河系外縁部の観測をさらに継続する。これまで取得したデータを取りまとめるだけでなく,新たな領域を観測対象として,低質量環境下での星・惑星形成について,より一般的な描像を得る方向性を追求する。装置開発では,せいめい望遠鏡に新装置を取り付けてテスト観測を実施する。この開発で初めて天文観測に採用された検出器を確実に動作させるとともに,試験観測を十分行い,今後,国内における星団観測の主力装置として活用できるように立ち上げを完遂させる。円盤観測については計画研究A02, A03, B03と,星団観測については計画研究A01,A02と連携を密に取りながら,領域全体でまとまった成果・知見が得られるような活動を推進する。
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