研究領域 | 都市文明の本質:古代西アジアにおける都市の発生と変容の学際研究 |
研究課題/領域番号 |
18H05447
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
安間 了 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (70311595)
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研究分担者 |
荒川 洋二 筑波大学, 生命環境系, 教授 (00192469)
横尾 頼子 同志社大学, 理工学部, 助教 (00334045)
淺原 良浩 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (10281065)
下岡 順直 立正大学, 地球環境科学部, 助教 (10418783)
中野 孝教 早稲田大学, 理工学術院, 客員教授 (20155782)
佐野 貴司 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (40329579)
若狭 幸 弘前大学, 地域戦略研究所, 助教 (40442496)
堀川 恵司 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (40467858)
黒澤 正紀 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50272141)
八木 勇治 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50370713)
池端 慶 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70622017)
丸岡 照幸 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80400646)
昆 慶明 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 主任研究員 (80709634)
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (50569283)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 都市鉱山 / 金・銀・銅 / 洪水伝説 / 氾濫原堆積物 / 粘土製品 / トラバーチン / 黒曜石 / 地形侵食速度 |
研究実績の概要 |
本計画研究の目的は、西アジアにおける都市文明勃興期から成熟期の都市を取り巻く環境変動や都市鉱山化の進行過程について、地球環境学的・地球化学的な観点から明らかにすることである。 本年度は徳島大学に走査電子顕微鏡を導入して研究環境を整備した。平成30年度に筑波大学に導入したマルチコレクター型ICP質量分析計システムの慣熟を行った。古代冶金に関する先行研究、古代の銅・銀・鉛鉱山と製錬法の概要をまとめた結果、自然銅や自然銀が枯渇するにつれて製錬法が複雑になる過程や、製錬廃棄物の頻出とその変化や地域差が把握された。古代の精錬技術の技術レベルを検討するために、イランの土器新石器時代の遺跡から出土した土器の焼成状態と銅製品の検討を行った結果、紀元前7千年紀には、孔雀石などの銅鉱石を充分製錬できる高温制御技術があることがわかった。 トルコ、イラク、イランで現地調査を行い、遺跡の発掘法面や未盗掘墓床面などで残留金属濃度のその場測定を行った。金属器の発掘された周囲の土壌で当該金属の濃度異常の分布を確認するとともに、Caなどの元素が土壌中で移動する様子を明らかにした。原産地推定のための基礎的データを集めるため、イラン地質調査所と覚書を取り交わして金・銀・銅・鉄鉱床の現地調査と共同研究を開始し、金鉱床中の黄鉄鉱の硫黄同位体組成、鉱床母岩の化学組成や年代などを明らかにした。 古環境復元のために、イラン国各地でトラバーチンおよびトラバーチン湧水を採取し、炭素・酸素同位体分析および14C年代・U/Th年代分析を進めるとともに、現在の環境動態を探るためにイラン国内10都市での毎月降水モニタリング網を整備した。メソポタミア下流域のAl-Aqarib遺跡を飲み込んだ砂丘堆積物の移動速度を求めるためOSL年代測定用の試料を採取した。上流域での地形の侵食速度を見積もるため、地形年代測定用試料の追加採取を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
冶金考古学上の新地平を切り拓くために筑波大学に導入したマルチコレクター型ICP質量分析計システムの慣熟を行い、徳島大学に多くの試料の観察・定量分析を迅速に行うことができるSEM-EDSを今年度設置したことで、研究環境はほぼ整備され、必要なデータを粛々と収集する段階に入ることができた。この間、イラン、イラク、トルコ各国で現地調査を行い、より詳細な分析に必要な試料を、各地の発掘現場や鉱床から得るとともに、その場測定・分析をとおして新たな知見や、より効率的なストラテジーを導出する知見を得た。イランでは地質調査所と研究協力に関する覚え書きを締結しながらイラン各地の鉱床やその母岩に関する基礎的な共同研究を開始するなど、連携が順調に進行している。また、当計画班は、領域全体の分析部門として性格を持っており、ほかの計画研究から依頼を受けて、文化財や考古試料の各種分析や物質科学的記載などで貢献することができた。 いっぽう、今年度の予算で計画していたメソポタミア下流域での30mボーリング調査は、現地研究協力者の積極的な関与があって準備が整ったものの、試料を輸出する方途について問題が生じ、継続課題となった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの活動で研究環境は整備されたため、今後は系統的かつ集中的にデータを収集する段階に入る。今年度までの研究により、都市文明の発祥の地であるメソポタミア下流域で完新世の最下部まで到達するボーリングによる連続柱状試料の入手と、その中の金属元素濃集度の連続的な変化や堆積速度変化の精査が、本計画研究の大きな目標として再認識された。メソポタミア下流域での30mボーリング調査を完遂すべく、全力を尽くす所存である。 また、今後も現地における面的な調査とその場測定、採取試料の国内での詳細な分析をとおして、各地での地形や堆積速度、土壌中の各種元素濃集度などの面的な分布と深さ方向の変化を定量的に評価し、研究を推進していく所存である。また、西アジア各地の鉱床金属の組成や同位体のデータなどを系統的に収集・測定し、原産地推定のためのデータベースを構築する。 2020年3月現在、COVID-19の影響により西アジア諸国への海外調査隊の派遣は困難になりつつある。その場合でも、イラン国地質調査所との覚え書き締結をはじめ現地研究協力者との連携によって試料を継続的に入手する体制を本年度中に整えることができたこと、本年度までに今後2年程度かけて分析するに不足がない程度の多くの試料は入手できていることから、本計画研究は充分に遂行可能である。
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備考 |
濱口弘平(横尾頼子指導卒論生),イランの月別降水の元素組成とSr同位体比の地域的特徴,同志社大学理工学部学士論文,2020年3月 金澤康平(横尾頼子指導卒論生),イラン7都市の降水中に含まれる不溶性物質の元素組成とSr同位体比の比較,同志社大学理工学部学士論文,2020年3月
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