研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
18H05451
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
乾 晴行 京都大学, 工学研究科, 教授 (30213135)
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研究分担者 |
佐藤 裕之 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (10225998)
田中 將己 九州大学, 工学研究院, 教授 (40452809)
土谷 浩一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 若手国際研究センター, センター長 (50236907)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ハイエントロピー合金 / 降伏強度 / 引張伸び / 破壊靱性 / クリープ強度 / 積層欠陥エネルギー / 短範囲規則 / 転位 |
研究実績の概要 |
ハイエントロピー合金には、従来合金には見られない特異で優れた力学特性を示すものが多く見られる。本計画研究では、ナノ・マイクロ力学特性評価法、走査透過電子顕微鏡法、シンクロトロンX線回折法、3次元アトムプローブ法などの先端実験手法を有機的に駆使し、合金の相構成、原子構造、原子移動、変形の主体的担い手としての転位、双晶(転位)、積層欠陥、結晶粒界などを徹底的に解析し、その静的特性のみならず、応力、温度、ひずみ速度、などが異なる種々の環境下での動的応答特性を原子スケールにまで遡って評価し、合金の原子構造、組成、組織と力学特性の相関を予測的に記述する力学特性マップ(構成則)を構築しつつ、金属・合金のみならず金属ガラス、セラミックスなど広範な材料において発現するハイエントロピー効果に基づいた新規で特異な力学特性およびその支配因子を探索・解明し、ハイエントロピー効果の本質を根源的に解明する。特に(1)ハイエントロピー合金の異常に高い低温降伏強度、(2)異常に高い低温引張延性・靭性と低温域における強度と延性の正の相関、(3)高温における異常に高い降伏強度、(4)強度の特異な結晶粒径依存性、(5)原子拡散に関連した高温クリープ強度について重点的に実験研究を行い、2元系や3元系の通常の合金には現れない特異な力学特性の発現メカニズム・ハイエントロピー効果の本質を根源的に解明し、「強くてねばい」夢の革新的構造材料を幅広い材料系で実現するための指針提案に繋げる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
FCC型CrFeCoNi等原子量合金単結晶では、CrMnFeCoNi等原子量合金単結晶と同様に室温では変形双晶は起こらないが、77Kでは変形双晶が起こる。しかし、FeCoNi等原子量合金単結晶では室温、77Kいずれでも変形双晶が起こらない。この挙動は積層欠陥エネルギーの絶対値により整理する事ができる。これまでのFCC合金の理解とは大きく異なり,変形双晶の開始応力は結晶方位に依存し強い温度依存性を示す事が明らかになった。 FCC型CrMnFeCoNi非等原子量ハイエントロピー合金のFCC-HCP相安定性と結晶粒微細化能の相関を解明する研究では、Ni/Co比を変えてCrMnFeCoNi合金を作製し、HPT加工により結晶粒微細化能を調査した。FCC相の相安定性が高い合金ほど、転位密度の急激な増加を伴った硬度の増加が顕著に起こり、HCP相における微細化は主として剪断帯内で起き、非常に不均一な組織となることが明らかとなった。 BCC型TaNbHfZrTiハイエントロピー合金多結晶体を用いてカンチレバーとの接触面が平面であるフラットパンチ圧子をカンチレバーの上面に押し込んですべりの固執性を調査した。歪み速度が低いと広い結晶方位範囲ですべり面は最大せん断応力面とほぼ一致するが、歪み速度を増大させるとすべりは{112}に固執するように変化した。これは、BCC型TaNbHfZrTiハイエントロピー合金のすべりが熱活性化家庭により支配されることと一致する。 FCC型CrMnFeCoNi等原子量ハイエントロピー合金のクリープ定常変形特性解析では、応力指数は低応力側では3,高応力側では5に近い。応力指数の変化は、二元系希薄固溶体の合金型クリープと純金属型クリープの挙動と一致しており、Cantor合金の巨視的なクリープ挙動の遷移の様相と組織の特徴は、単純系固溶体や純金属とよく似ている。
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今後の研究の推進方策 |
短範囲規則化(SRO)などハイエントロピー合金中の特徴的な欠陥構造の定量的解明およびその力学特性との相関の調査をTEM、STEMのみならず、第一原理計算(A02ウ、エ班との連携)、EXAFS, 3D-AP(A03オ班との連携)などの最先端技術を用いて行いたい。特にSROが堅調に発達すると報告されているCrCoNi系では原子散乱因子の差が小さく回折手法ではSROが検知できないため、CrCoNi系におけるSRO直接観察に挑戦しつつ、極低温での降伏強度及びその温度依存性から解明を進め、単範囲規則化が強度に及ぼす影響について転位と溶質原子の相互作用の本質からの解明を目指したい。また、A02、A03班との連携から原子拡散のメカニズムを解明しつつ、クリープ定常変形特性と原子拡散の相関関係確立に向けての研究を更に深化させる。A02班で得られたハイエントロピー合金の特徴の一つと言われるSluggish拡散は生じないとの結論を、種々の合金系のクリープ変形に関する研究結果と比較しつつ、Sluggish拡散に関する最終的な結論を導きたい。変形能(引張特性)に富んだ合金および形状記憶特性に富んだ新合金の開発指針の解明を目指してA02ウ、エ班との連携を強化し、FCC-HCP構造間のエネルギー差と変形双晶、マルテンサイト変態の相関関係の確立を目指す。また,前年度に引き続きA03班との連携からBCC型ハイエントロピー合金についても等軸極微細粒の形成過程、脆性-延性遷移機構の解明も更に深化させる。BCC型ハイエントロピー合金についてはA03班との連携により変形機構の解明に挑戦する。
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