研究領域 | ハイエントロピー合金:元素の多様性と不均一性に基づく新しい材料の学理 |
研究課題/領域番号 |
18H05456
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古原 忠 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50221560)
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研究分担者 |
荒木 秀樹 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20202749)
杉山 和正 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (40196762)
井上 耕治 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (50344718)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 相安定性 / 原子間相互作用 / 短範囲規則 / 相分離 / 構造解析 |
研究実績の概要 |
本年度は、以下の分担項目において検討を行った。 Fe-35Ni-35Mn(at%)合金の溶体化後①等温時効と②プラズマ窒化を施し、硬度測定およびナノ組織解析を行った。短時間あるいは低温時効で微視的にはMn-MnやNi-Niクラスタリングが生じることが明らかとなった。同合金の窒化材では最表面からMn3N2の不連続析出によるラメラ組織の生成、その内側に窒素の規則化を伴う高窒素オーステナイトが生成することを見出した。 非晶質合金Zr-PtおよびMg-TM(遷移金属)系に関する中距離領域構造の発達を解明した。組成等モル領域で高いGFAを示す非晶質合金のNb-Ni系局所構造の特徴として非等方的な構造領域(構造不均一領域)が観測されることを明らかとした。含有ハロゲンのハイエントロピー状態における新しい秩序化のパターンを見出し、局所構造の秩序化モデル(固溶体モデル)で解釈可能であることが確認した。Fe-Ni系およびCrNiCo系合金に関して、相分離やL10発達に関する試料探索を完了した。 3次元アトムプローブを用いて、CrCoNi合金の短距離秩序について実空間における元素分布から調査した。CrCoNiを熱処理することで、<111>方向では濃度変調は見られないが、<001>では1原子面おきに濃度変調が観測された。一方、超格子反射は確認できず明瞭なL12やL10は存在していないが、規則化の初期段階が起こっている可能性が示唆された。 陽電子寿命法を用いてCrFeNi等モル合金について原子空孔の形成エンタルピーを評価した結果、1.8 eVとなりCoCrFeMnNiハイエントロピー合金や構成元素の純金属と比較しても顕著な差は見られなかった。第一原理計算による結果では空孔形成エンタルピーの平均値は構成元素数の増加と共に0.05~0.10eV程度増加する傾向を示すが、顕著な変化は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイエントロピー合金の相安定性の理解を深めるために、当初予定していた高窒素添加材の調査、非晶質合金における中距離領域構造の発達解明,3次元アトムプローブを用いた短距離秩序の調査、陽電子寿命法や第一原理計算を用いた原子空孔の形成エンタルピー評価ができており、順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,主要研究対象とするFe基多元系高合金およびハイエントロピー合金を用いて,以下の項目において研究を行う. (1)これまでに作成したFe-Ni-Al, Fe-Ni-Mn3元合金の時効材について,透過型電子顕微鏡を用いて、規則化と相分離挙動について明らかにする。また,Fe-Ni合金に種々の窒化物生成元素を添加した合金を作製して窒化処理を施すことで,侵入型元素が相安定性に及ぼす影響を調査する. (2)昨年度測定を行ったCoCrFeMnNi合金のMnをAlで置換したAlCoCrFeNi合金や関連のミディアムエントロピー合金について陽電子寿命高温そ の場測定により空孔形成エンタルピーを求め、拡散の活性化エネルギーにおける寄与を明らかにする。第一原理計算により系統的に空孔形成エンタルピーを求め、実験結果の検証を行うとともに、各構成元素の影響を明らかにする。 (3)3元系合金Fe-Ni-Alおよび Cr-Co-Niについて,等温時効実験により元素分の秩序化配列を完了した試料に関して,内在する構成元素間の短距離秩序(SRO)および中距離秩序(MRO)を解明する,また2元系Fe-Ni合金に関しては,taeniteからtetrataeniteへの秩序化過程をX線異常散乱法を用いて解明する.非晶質合金に関しては,混合エンタルピーとクラスター形成との関連性に関する研究を継続する. (4)FCC系の3元系モデル合金であるCr-Co-Ni合金において、構成元素間の短距離秩序(SRO)について、3次元アトムプローブを用いて、特定結晶方位における各元素の空間分布から調査する。
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