計画研究
高品質な電子ビームを用いて生成する仮想光子を使い、ラムダ粒子という最も軽いストレンジクォークを含むバリオンを原子核内部に不純物として生成することにより、この世で最も高密度な中性子星深部のミニチュアであるラムダハイパー原子核を地上で作り出し、精密分光することができる。現在、原子核物理学においてホットなトピックとなっている互いに関連する4つのパズル:ΛNN 3 体力の効果、ΛN 荷電対称性の破れ、原子番号ゼロのハイパー核(nnΛ)が存在するかどうか、最も単純なハイパー核にも関わらず束縛エネルギーと寿命が同時に理解できない三重水素Λハイパー核パズルに解答を与えることを目指す。そして、これらの知見を総合して重い中性子星の謎(ハイペロンパズル)を解決する。これによりバリオンから中性子星というサイズスケールが大きく異なる量子多体系を統一的に理解するという原子核物理の大目的に迫ることができる。2018年度は米国ジェファーソン研究所(JLab)において三重水素標的を用いて T(e,e'K)[nnΛ]反応により原子番号0のハイパー核である(nnΛ)探索実験のデータを収集した。その後、2019年初頭にはダークフォトンを探索する実験(APEX)にも参画した。さらに、既にJLabで最高評価で実験採択されているカルシウム同位体標的を用いて世界初の中重ハイパー核のアイソスピン依存性を精密測定しΛNN三体斥力を研究する実験の準備を進めた。特にこの実験で必要なスぺクトロメータ系の一部となる偏向電磁石の設計を推進した。当初の予定では負電荷粒子偏向電磁石を2018年度に製作し、2019年度に対となる正電荷粒子偏向電磁石を製作する予定であったが、米国側の粒子偏向角、設置場所に関する要請が厳しく設計の再検討を行うこととし、予算の一部を繰り越し負電荷電磁石も2019年度に正電荷電磁石と同時に製作した。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた三重水素標的を用いた nnΛ実験のデータ収集は無事終了し、偏向電磁石の設計を当初、共同で行っていたAPEX実験とのコラボレーションも順調に進んだ。nnΛ探索実験のデータ解析は日米双方の解析グループが独立に進め、定期的な情報交換、解析の妥当性を確認しながら慎重に進めている。その後、偏向電磁石は日本側独自の設計で行うこととなり、既にJLabで最高評価で実験採択されているカルシウム同位体標的を用いて世界初の中重ハイパー核のアイソスピン依存性を精密測定しΛNN三体斥力を研究する実験のために負電荷偏向電磁石の設計を進めた。しかしながら米国側の粒子偏向角、設置場所に関する要請が当初の予想より厳しく、偏向電磁石の偏向角を大きくする必要が生じ、設計の再検討を行うこととなった。当初の予定では負電荷粒子偏向電磁石を2018年度中に製作し、それと対となる正電荷粒子偏向電磁石を翌2019年度に製作する予定であったが、上記の理由で設計を再検討する必要が生じたため、予算の一部を繰り越し負電荷電磁石も2019年度に正電荷電磁石と同時に製作した。米国側クループとの調整の結果、負電荷偏向電磁石と正電荷偏向電磁石の設計を同時に見直し最適化し、2019年度に一緒に製作することにより、両方の偏向電磁石の完成時期を大きく遅らせることなく、2019年度内に無事完成することができた。このため、研究計画全体から見れば大きな遅延はない。
2018年度に製作予定であった負電荷偏向電磁石と共に、2019年度には正電荷偏向電磁石を製作し、完成した。2020年度以降に国内で励磁テストを行い電磁石の基本性能を確認した後、真空箱を新たに設計、製作する。それらを組み込んだ後に米国に輸出し、現地において調整を行う。また、米国において準備すべきカルシウム標的の設計、製作を引き続き、ジェファーソン研究所のターゲットエキスパートと協力して推進する。また、マインツ大学MAMIにおいて次世代π中間子分光実験のデザインを進め、それに必要な電子ビーム精密測定技術の確立を目指す。さらに、東北大学電子光理学研究センター(ELPH)において、標識化光子を用いて荷電K中間子、Λ粒子間の終相互作用を測定する実験、三重水素Λハイパー核寿命測定実験の準備を引き続き進める。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (4件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 15件、 招待講演 2件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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