計画研究
高品質な電子ビームを用いて生成する仮想光子を使い、ラムダ粒子という最も軽いストレンジクォークを含むバリオンを原子核内部に不純物として生成することにより、この世で最も高密度な中性子星深部のミニチュアであるラムダハイパー原子核を地上で作り出し、精密分光することができる。現在、原子核物理学においてホットなトピックとなっている互いに関連する4つのパズル:ΛNN 3 体力の効果、ΛN 荷電対称性の破れ、原子番号ゼロのハイパー核(nnΛ)が存在するかどうか、最も単純なハイパー核にも関わらず束縛エネルギーと寿命が同時に理解できない三重水素Λハイパー核パズルに解答を与えることを目指す。そして、これらの知見を総合して重い中性子星の謎(ハイペロンパズル)を解決する。これによりバリオンから中性子星というサイズスケールが大きく異なる量子多体系を統一的に理解するという原子核物理の大目的に迫ることができる。2018年にnnΛ(原子番号0のラムダハイパー核)探索実験(JLab E12-17-003)のデータ収集を実施し、成功裏に終了した。その後、日米でそれぞれ解析グループを組織し、解析を進めた。また、カルシウム同位体標的を用いて世界初の中重ハイパー核のアイソスピン依存性を精密測定しΛNN三体斥力を調べる実験が既に最高評価で実験採択(E12-15-008)されている。これに加えより軽い標的、より重い標的に関する実験をE12-15-008実験と同時に遂行するための実験デザイン、および準備を進めた。さらに、この実験に必要なスペクトロメータ系の一部となる偏向電磁石の設計を米国ジェファーソン研究所の研究者、エンジニアと共同で進めてきたが、その結果をもとに最終的な三次元磁場計算、モンテカルロシミュレーションを実施し、偏向電磁石の製作を行った。
2: おおむね順調に進展している
2018年度、nnΛ(原子番号0のラムダハイパー核)探索実験(JLab E12-17-003)のデータ収集を実施し成功裏に終了した。本年度も昨年に引き続き、日米それぞれの解析グループが独立して解析を進めた。また、カルシウム同位体標的を用いて世界初の中重ハイパー核のアイソスピン依存性を精密測定しΛNN三体斥力を調べる実験が既に最高評価で実験採択(E12-15-008)されているが、より重い標的に関する実験をE12-15-008実験と同時に遂行するために鉛標的を用いたハイパー核電磁生成実験を2020年のJLab PAC48に提案する。このために必要なシミュレーション、実験条件の最適化などの準備を進めた。また、必要となる鉛標的の熱計算を進め、融点の低い鉛標的を安全に使用できるようなターゲットホルダの設計を開始した。2018年度に製作予定であった負電荷粒子分離用電磁石は米国側の都合により設計変更することになり製作が遅れていたが、2019年度に製作予定であった正電荷粒子偏向電磁石と同時に製作し、実験計画全体には影響なく完成することができた。さらに、マインツ大学MAMIにおいて、三重水素Λハイパー核パズルの解決に向けて、我々が創始した次世代π崩壊中間子分光実験のデザインを進めた。また、RF光電子増倍管を開発して、崩壊π中間子分光実験の精度を一層高めることができるかの検討を国際共同研究として開始した。東北大電子光研究センター(ELPH)では、標識化光子ビームを用いて荷電K中間子とΛ粒子を生成し、終相互作用を通じてΛn間力を調べる研究を推進した。さらに、軽いΛハイパー核の寿命測定実験に向けた検出器デザインを進めた。よって研究はほぼ予想通り、順調に進展しているといえる。
完成した偏向電磁石対と同時に使用する真空箱のデザインを進め、2020年度に製作、完成を目指す。その後は、偏向電磁石、真空箱を米国に輸出し、現地における動作確認、調整を行う。また、新規に認められた鉛標的を用いた重いハイパー核分光実験を遂行するために、鉛標的の熱計算を進め、融点の低い鉛標的を安全に使用できるようなターゲットホルダの設計、製作を進める。それと同時に、低温ガス標的を用いた軽いハイパー核精密分光実験の検討も進める。マインツ大学ではアンジュレータを用いた電子ビームエネルギー精密測定実験を進める。電子ビームのエネルギーが精密に測定できるとこの電子ビームを用いて磁気スペクトロメータを精度良く較正することができる。三重水素Λハイパー核パズルの解決のために三重水素Λハイパー核の束縛エネルギー精密測定実験の準備を進める。東北大電子光研究センター(ELPH)では、軽いハイパー核寿命測定実験に必要な荷電粒子測定装置の開発を行う。懸案事項としては、2020年はじめから問題になりつつあるCOVID-19の影響がどの程度、深刻になるものか予想がつかないことである。海外出張が長期に渡って不可能になると米国、ドイツで展開する国際共同研究への影響が懸念される。もし、影響が長期化する場合は、国内で遂行できる研究テーマを優先して準備する。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 7件、 招待講演 4件) 図書 (1件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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