研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
18H05460
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
二宮 和彦 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90512905)
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研究分担者 |
齋藤 努 国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 教授 (50205663)
大澤 崇人 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (70414589)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ミュオン / 非破壊元素分析 / ミュオン特性X線 / イメージング分析 / 考古学 / 隕石 / ミュオン原子 |
研究実績の概要 |
本研究では、ミュオンを用いた様々な試料への三次元の非破壊元素イメージング分析を目的として、三次元イメージング検出器の開発を中心とするミュオン測定システムの整備と、様々な試料へのミュオン分析適用実験を行う。初年度であるH30年度は、イメージング検出器の整備と実試料への適用に向けた基礎的な検討を行った。 本研究では、複数台のCdTe半導体をベースとしたイメージング検出器の整備を計画しており、そのプロトタイプにあたる宇宙観測で利用された検出器をもとに、試作機の作成を行った。試作機の開発にあたり、宇宙観測では問題となっていなかったCdTe半導体とASICとの接続において、量産において問題となる部分が発覚したが、開発の中でその問題点を解決し、試作機の開発を進めた。開発した試作機を用いて、金属のマスクの後方にアメリシウム241線源を用いたイメージング実験を行い、マスクの模様通りの二次元像が得られることを確認した。 イメージング検出器を用いた実験を進めるための実試料の基礎的な検討を行い、いくつかの標準試料についたミュオンによる照射実験を行い、ミュオン特性X線スペクトルの取得を行った。特に鉄についての実験を進め、化学形の変化により得られるミュオン特性X線の強度がどのように変化するのかについて調べた。さらに考古学資料の分析に向けて、資料の選定や必要分解能の検討を行い、マシンタイム実施に向けてのフィジビリティ検証を行った。 本年度は、これらの研究成果を通して、7件の査読付きの論文が掲載され、また1件の書籍の刊行があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的としていた、(1)イメージング分析に向けたCdTe半導体検出器の試作機の開発、および(2)イメージング分析に向けたミュオン実験試料の検討。についてそれぞれ想定していた研究成果を得ることができた。 (1)これまで宇宙観測用に開発されていたCdTeイメージング検出器について、地上での加速器実験に向けた仕様の再検討と試作機の開発を行った。加速器施設における配置の問題と検出効率の関係から、検出器を小型化する必要があり、また冷却についてのシステムについては新しいものを検討した。プロトタイプとなる宇宙観測で使用された検出器では、問題となっていなかったCdTe半導体とACISの接続において、製作上の歩留まりの問題があり、その部分の開発に時間を要したものの試作機について開発ができた。その性能についても、金属製のマスクと線源を用いたイメージング実験を行うことで確かめ、必要な空間分解能と検出器のエネルギー分解能が達成されていることを確認した。 (2)イメージング実験を進めていくためのミュオン実験試料について、考古学及び宇宙地球化学の専門家を交えた研究会を実施し、そのターゲットとなる具体的な試料について検討を進めた。考古学においては、陶器の分析を進め、釉薬材を元素分析しつつその文様をイメージングすることにし、資料の選定を進めた。宇宙地球化学においては、隕石を対象としてその中の軽元素の分析と位置のイメージングを行うために、同様に隕石試料の選定を進めた。さらに隕石の主成分の一つである鉄に注目し、そのミュオン照射のテスト実験を実施した。また、次年度のJ-PARCにおけるマシンタイム実施のための長期課題の申請を取りまとめた。これにより、次年度以降年間20日程度のマシンタイムを実施する環境が整った。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画は、申請時に計画した内容について、順調な研究成果が得られている。H31年度は、予定通り(1)CdTeイメージング検出器の量産化と高度化、(2)宇宙地球試料へのミュオン照射実験、について研究を進めていく。 初年度、CdTeイメージング検出器の試作機を開発することができたため、これを量産化することで加速器実験におけるイメージング実験を推進する。また、これらの製作と性能評価を通じて、高エネルギー仕様や高空間分解能の特化したCdTeイメージング検出器の開発を進めていく。 J-PARCにおける長期課題の枠のもとに、最初に宇宙地球試料へのミュオン照射実験を進めていく。本研究課題では、軽元素の非破壊分析を重要な目標の一つにしており、特に炭素が豊富なCM等の炭素質隕石について分析を実施する。また、J-PARCにおける実験を推進するために、CdTeイメージング検出器を効率的に配置可能な専用の測定システムの開発を行う。
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