研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
18H05461
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木野 康志 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00272005)
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研究分担者 |
佐藤 元泰 中部大学, 工学部, 特任教授 (60115855)
棚橋 美治 中部大学, 工学部, 教授 (60804094)
山本 則正 中部大学, 工学部, 准教授 (40350326)
岡 壽崇 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 任期付研究員 (70339745)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | ミュオン / 核融合 / 少数多体系 / 原子衝突 / 衝撃波 / エキゾチック原子分子 / ミュオン触媒核融合 |
研究実績の概要 |
原子核自由度を取り込んだ新たな計算法を用いて、ミュオン触媒核融合(μCF)反応後に再放出されるミュオン(再生ミュオンとよぶ)の運動量分布を厳密な量子少数多体系計算により行い、再生ミュオンの運動量分布が得られた。 クーロン力などの長距離力を含む四体系を精密に計算できるガウス関数展開法の定式化と計算プログラム開発を行った。この計算方法により、摂動計算でしか考慮できなかったミュオン原子分子の周囲の電子の影響を直接計算できるようになった。計算の結果をミュオン原子・分子過程に適応することにより、高温で高いミュオン分子生成率が見込めること、ミュオン分子共鳴状態dtμ*(dμ + tしきい値より2 keV上の準安定状態)の生成から高エネルギーのtμまたはdμ原子の生成が十分に見込めることができ、飛行中ミュオン触媒核融合(IFμCF)のために、系を加熱する必要がなくなった。また、水素ガスの解離しきい値より低い温度で実現するため、従来のμCFと両立させることもできる。つまり、μCFサイクルとIFμCFサイクルを組み合わせた新たなDμCF (Dual μCF)サイクルのアイディアに達した。 マッハ風洞試作機を製作し試験を行った。ラバールノズルからの原料ガスがマッハ3~4の超音速で斜め衝撃波となり、それらの干渉によってノズルの管軸上に30気圧(3 MPa)のマッハ衝撃波干渉領域の形成をシュリーレン画像により確認した。衝撃波の形状はナビエ・ストークスの式に基づく精密解を再現し、衝撃波面の空間的安定性が確保できた。 DμCFに関する進展により、核反応後に次のサイクルに移る再生ミュオンの運動量の測定が重要となった。新学術領域研究内の別の計画研究(C02班)と合同で、μCF素過程を直接観測できる実験装置を開発し、再生ミュオンの検出に世界で初めて成功した。現在、運動量測定を目指した実験の準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ミュオン分子にその周りに存在する電子の効果を入れた詳細な理論計算により、ミュオン触媒核融合におけるミュオン分子共鳴状態が重要な役割を果たすことが明らかになった。このため、新しいミュオン触媒核癒合反応のアイディアが生まれ、これまでミュオン触媒核融合推進のための障害の一つと考えられてきた核融合反応後に放出される高エネルギーのアルファ粒子によ系の加熱の問題が解決した。 ミュオン触媒核融合後に放出される再生ミュオンの検出に世界で初めて成功した。
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今後の研究の推進方策 |
ミュオン分子共鳴状態dtμ*である。この状態の存在は、我々のチームも含め重要性は指摘してきたが、dtμ*周囲の電子の影響が強く、正確な理論計算が不可能であった。今年度までの研究で電子を含めたdtμやdtμ*の厳密な計算が可能になった。2021年度までに、(1) dtμ*のエネルギー準位、崩壊寿命、生成率の計算を行う。2022年度までに、IFμCFサイクルの素過程の計算を行い、DμCFサイクルのシナリオを完成させる。 マッハ風洞試作機を用いて干渉領域を安定に生成・維持しうるかの試験を行う。また、DμCFサイクルを想定したマッハ衝撃波干渉領域を含む核融合炉の理論設計を行う。2021年度までに、マッハ風洞試作機に、圧力計等の計器を導入し、マッハ衝撃波干渉領域の安定性に関する基礎データを得る。2022年度までに、試作機、理論チーム、ビーム実験チームからのデータを反映させて、DμCFを実現するラムジェットDμCF核融合炉の概念設計を終了する。 DμCFサイクル内の各反応素過程の反応率を決定するための実験をJ-PARCのミュオン施設にて行う。2021年度までに (1) 2019年度で検出されたミュオン分子内核融合後に再放出される再生ミュオンの運動量測定をおこなう。また、このための静電場による分光システムを開発する。精密な理論計算による予測を行っており、実験との一致をみれば、原子核と原子分子の階層をまたがる過程を統一的に明らかにすることになる。(2) A01班と共同して超伝導TESカロリーメータによりdtμ*、tμ*、dμ*からのX線の測定を行い、これらの存在量を調べる。2022年度までに(1) dtμ*の解離により生成する高エネルギーのdμの検出とdμ+tの核融合反応の検出を行う。まず、重水素のみを用いた実験を実施し、その後、C02班と共同してトリチウムを用いた実験を目指す。
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