計画研究
前年度に引き続き、従来のミュオン触媒核融合(μCF)に飛行中ミュオン触媒核融合(IFμCF)の効果を組み合わせたDμCF (Dual μCF)に関するミュオン原子分子過程の理論計算を行った。DμCF中のミュオン原子分子過程を網羅したシミュレーション計算を行い、新しい理論が過去の実験値を人工的な調整パラメータなしに説明できることを示した。低エネルギー原子核反応断面積を再現する原子核反応モデルポテンシャルを用いて、ミュオン分子内核融合反応後に核融合生成物であるアルファ粒子の原子軌道にミュオンが捕捉されるα・μ付着反応の確率を計算した。原子核反応と原子分子反応をチャネル結合法により精密に計算した。従来は、瞬間近似で計算されていたが、この方法だと終状態のαとn間の角運動量がS波となり、d-t核反応を引き起こすHe-5の共鳴状態が再現できなかった。今回、正しい境界条件を課したチャネル結合法を用いたため、αとn間をd波となる核反応を再現することができた。計算結果はこれまでの実験値を再現することができた。DμCFを実装するためのラバールノイズ中に形成されるマッハ衝撃波干渉領域は、空気力学的に中空に支えられた構造となる。これは従来のμCFや磁場浮上型の熱核融合と大きく異なる方式であり、ラバールノズルの臨界速度部における圧力の30倍程度まで圧力をあげられる。干渉領域の安定性を確認し、標的圧力の目標値である30気圧が達成できたことを確認した。DμCFで重要な役割を果たすミュオン分子共鳴状態dtμ*(dμ(1s) + tの解離しきい値より2 keV上の準安定状態)は、崩壊に伴い特徴的なスペクトルをもつX線を放出する。このX線スペクトルを測定するため、窓厚なども改造した超伝導検出器(超伝導TESカロリーメータ)を導入した。
2: おおむね順調に進展している
クーロン四体系の精密数値計算法を確立し、周囲の電子の効果も直接取り入れたミュオン分子の束縛状態と共鳴状態のエネルギー準位の計算を行った。この結果をもとに、新しいミュオン触媒核融合サイクルのモデルを提案し、このモデルにより従来の実験値が再現できることを示した。特に、ミュオン分子共鳴状態の解離に伴い放出されるX線のエネルギースペクトルとミュオン分子脱励起過程の関係を明らかにし、超伝導検出器(超伝導TESカロリーメータ)を用いたミュオン分子X 線の精密分光実験に指針を与えた。μCFサイクル率を左右するα・μ付着反応の確率について、正しい核反応モデルを反映するチャネル結合法による精密な計算を行い、実験値を再現することができた。同時にα粒子に捕捉されずに自由空間に飛び出すミュオン(再生ミュオン)のエネルギー分布も計算することができた。循環式超音波マッハ衝撃波核融合風洞の設計と製作を行い、ターゲットの安定化、安全性のチェックを行い、標的圧力の目標値 30 atm が達成できた。再生ミュオンの検出と、dーd核融合反応から生じる中性子測定のバックグラウンドの原因となるサーマルシールドの材質を銅からアルミニウムに変更し、真空チャンバー内の体積を増やす改造を行い、新しい装置が正常に稼動することを確かめた。また、再生ミュオン輸送のための静電輸送装置の改造を行い、輸送効率とS/N比の向上が確認できた。分担者の山下琢磨が日本陽電子科学会奨励賞を受賞した。指導する学生が原子衝突学会第 46 回年会 優秀ポスター賞(佐野大志)、東北大学平間賞(神谷直紀)の受賞があった。
DμCFで重要な役割を果たすミュオン分子共鳴状態dtμ*について、dtμ*周囲の電子の影響も含めた正確な理論計算を引き続き行い、dtμ*の生成から崩壊までの反応機構を解明し、解離性崩壊により生成する1keV程度の高いエネルギーをもつミュオン原子やX線の放出率やエネルギースペクトル形状を予言する。マッハ風洞試作機を用いて干渉領域を安定に生成・維持しうるかの試験を行う。また、DμCFサイクルを想定したマッハ衝撃波干渉領域を含む核融合炉の理論設計を行い、DμCFを実現するラムジェットDμCF核融合炉の概念設計を行う。DμCFサイクル内の各反応素過程の反応率を決定するための実験をJ-PARCのミュオン施設にて行う。JPARCでのトリチウムを用いた実験は本研究期間内では困難となった。そこで、ミュオンステッキング割合が大きいddμ分子について、理論と実験によりステッキング反応機構のより詳細な理解を目指す。ミュオン分子内核融合後に再放出される再生ミュオンの運動量分布の計算をおこない、実験値と比較する。 A01班と共同して超伝導TESカロリーメータによりddμ*、dμ*からのX線の測定を行う。ddμ*の解離により生成する高エネルギーのdμの検出を行う。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (20件) (うち国際共著 13件、 査読あり 20件、 オープンアクセス 17件) 学会発表 (28件) (うち国際学会 5件、 招待講演 8件) 産業財産権 (3件) (うち外国 1件)
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