研究領域 | 宇宙観測検出器と量子ビームの出会い。新たな応用への架け橋。 |
研究課題/領域番号 |
18H05462
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
上野 秀樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (50281118)
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研究分担者 |
高峰 愛子 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 研究員 (10462699)
山崎 展樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (00271528)
山本 文子 芝浦工業大学, 公私立大学の部局等, 教授 (50398898)
吉見 彰洋 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (40333314)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | その他の量子ビーム / 核スピン偏極 / 原子核(実験) / 量子ビーム測定手法 / 磁気共鳴 / 機能材料 / 放射線 |
研究実績の概要 |
本研究では RI ビームに「超低速・高核スピン偏極」という新たな価値を付加した新奇量子ビームを実現すべく、RI 原子線共鳴装置の開発を行う。更に当該装置を用い、β線検出型超高感度 NMR 法 (β-NMR 法)による新たな物質科学研究を開拓するとともに、宇宙研究用ガンマ線検出器と組み合わせた核物理の展開も目指している。目的達成に向け、酸素RIプローブの性質解明及び関連研究を推進する1) 核プローブチーム、原子線共鳴装置の開発を担う2) RI イオン冷却・中性化装置開発チーム及び3) RI 原子線共鳴装置本体部開発チーム、その利用研究を推進する4) 物質科学研究チーム及び発展的利用を進める5) γ線核分光研究チームの 5 チーム体制で研究を推進している。 2019年度は1) で多くの成果が得られた。まずはHIMAC及び理研で実験を実施し、懸案課題であったO-21の核電気四重極モーメントの精密測定に成功、物質科学研究での利用が可能となった。また、関連研究として進めてきた、Zr-99のアイソマー準位について、独自開発した手法を本格適用することで核磁気モーメント測定に成功しており、解析を終えて論文発表・プレスリリースを行った。2)ではRI原子線共鳴装置で最も重要な要素技術開発にあたる線形Paulトラップ部の構築を行った。高真空生成、各部の動作試験を経て、現在Rbイオンを用いた動作試験を行っている最中である。4) では、佐賀大との共同研究によりmmサイズのCuO単結晶の生成に成功した。これと、1) のO-21の核電磁モーメント測定の成功を受け、当該年度初めてCuOのβ-NMR測定を実施することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で用いるO-21 の核電気四重極モーメントが測定されたことにより、CuOのβ-NMR測定が可能となった。これは当研究には重要な進展である。CuO を試料とする初めてのβ-NMR物性実験にも着手することができた。CuOの単結晶作製で、前年度数十μmサイズであったものが、mmレベルまで大型化できるようになってきたことも大きな成果である。核プローブ研究の関連研究として実施されたZr-99の核磁気モーメント測定(日仏を中心とする日欧共同研究)では論文発表を行い、成果は理研からプレスリリースされた。他にも核スピン整列しか生成できない高エネルギーRIで、β-NMR実験を可能とする新たな試みとしてHIMAC加速器施設でR&D研究を行っている、核スピン整列RIビームを用いたβ-NMR法の開発では成果が得られ、原理実証に成功した。 RI原子線共鳴装置のイオントラップ部の開発では、2019年11月より専任の任期制研究員を雇用し、開発が着実に進められている。イオントラップ部の真空槽内は常時、ターボ分子ポンプとスクロールポンプで真空に保たれており、冷凍機を使用することで、イオントラップ試験を行うのに十分な高真空環境を作り出せることを確認した。次いで、Rbイオン源に電圧を印加しトラップ電極へのイオン輸送を行った、RF電圧を四重極電極へ印加するために、1 MHz以下の低周波数で動作可能な回路を作成・実装した。四重極電極へ印加するRF電圧を掃引し、線形Paulトラップ下流のチャンネルトロンを用いて輸送されるイオン数の変化を測定した。イオン源に含まれている不純物との分離は完全ではないものの、Rbイオンが線形Paulトラップ下流まで輸送されていることが確認されている。 以上、当初予定に比べ一部若干の遅れが生じているが、全体としてはおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、若干の遅れが生じているRI 原子線共鳴装置の開発に特に注力する。また、ここまで得られた成果を論文にまとめると同時に、関連研究も推進する。 各チームの2020年度の実施計画は下記の通り:1) 核プローブチーム: 測定に成功したO-21の核電磁モーメントの結果をまとめるのと並行し、RIBFや放医研での関連研究、特に応用範囲の広い核整列RIビームを用いたβ-NMR法の開発を推し進め、RIBFでの希少RIを対象とする実験提案に結びつける。2) RI イオン冷却・中性化装置開発チーム: まずはここまで開発を進めたイオントラップ部の動作確認を行う。線形Paulトラップ下流に配置したチャンネルトロンを用いてRbイオンを検出し輸送効率を定量化する。中性化についてはRb原子をレーザーにより励起させ、脱励起の際の蛍光をCCDカメラで観測する。このようにRbイオンのトラップ、中性化ガス導入によるRbイオンの中性化・観測等の実験を順次進める。その後、再冷却を行うための混入Beによる共同冷却装置の開発も進める。3) RI 原子線共鳴装置本体部開発チーム:シミュレーションを進め原子スピン選択性を有する原子線共鳴装置本体部の設計を引き続き行い、超微細構造間遷移のためのRFキャビティの開発に着手する。4) 物質科学研究チーム: mmサイズのCuO の単結晶作製に成功した佐賀大を研究分担者に加え、単結晶の更なる大型化 (~cm) を試みる。並行し1) と協力しHIMACでのO-19 を用いたスピン格子緩和時間の測定などの基礎研究を行うと同時にRIPSを用いたβ-NMR物性実験の申請を行う。5) γ線核分光研究チーム: RI ビームと宇宙検出器を組み合わせたγ線核分光実験の測定計画策定に向け基礎データを取得する。
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