研究領域 | ソフトロボット学の創成:機電・物質・生体情報の有機的融合 |
研究課題/領域番号 |
18H05469
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
福田 憲二郎 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (40613766)
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研究分担者 |
藤枝 俊宣 東京工業大学, 生命理工学院, 講師 (70538735)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / フレキシブルエレクトロニクス / ストレッチャブルエレクトロニクス / 伸縮性導体 / ナノシート |
研究実績の概要 |
これまでの取り組みにより、表面エネルギーが非常に小さいPDMS材料上に形成された透明電極や有機高分子材料などは密着性が悪く、酸素プラズマなどの表面処理などのアシストを施しても有望な改善が見込まれなかった。そのため、対象となるグラディエント基板をPDMSから変更することを視野に入れた取り組みを現在では行っている。 一方で、他方のアプローチとして剛性の高い基板と剛性の低いPDMSのような基板を別々に作製し、最終的に電気的コンタクトを伴う接合技術を確立する、というアプローチの検討を行った。本アプローチに関しては水蒸気プラズマによる表面改質技術を利用し、接触抵抗が非常に低い導電接合技術及び、強固な化学結合によって高分子フィルムを接合する技術が確立しつつある。また、基板に凹凸を施す技術を確立し、剛性の差ではなくバックリング構造で伸縮性を付与するという取り組みにも成功している。さらに、異なるデバイスを集積化させる技術の確立を先行して行った。この中でまずターゲットとしたのは超薄型有機太陽電池とスーパーキャパシタからなる蓄電デバイスである。実際に世界最薄かつ最高効率を持つ集積化システムが実現された。 他方、各種エラストマーを用いて、高分子ナノ薄膜を基材とする無線給電式発光デバイスや生体計測デバイスの開発に取り組んだ。導電性高分子PEDOT:PSSとSBSからなるナノ薄膜を二層に積層させることで、皮膚に貼付して筋電位を計測可能なナノ薄膜状の生体電極を開発した。また、この生体電極を切り紙状に加工した伸縮配線を介して、Bluetooth端末に接続することで、野球ピッチャーの投球時に生じる手のひらの表面筋電位変動のリアルタイム計測に成功した。段階的に力学特性の勾配を設けることで、身体のダイナミクスを生体信号の変化として計測できるようになった点は、「弾性グラディエント」を体現する特筆すべき成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初基板として利用予定であったポリジメチルシロキサン(PDMS)を基盤として用いることがやや困難であること明らかになったが、その代替案を複数検討し、それらによって問題を克服する目途がついている。蓄電デバイスとの集積化による世界最高効率のフレキシブル充電システムの実現や、手のひらの表面筋電位の変動をリアルタイムに計測など、応用研究についてもすでに成果が得られており、当初計画を鑑みるとおおむね順調に進展していると判断することができる。
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今後の研究の推進方策 |
PDMS以外の候補材料を利用した伸縮性ナノ薄膜を検討するとともに、材料合成の異なるグラディエント基板の直接製造以外にも、貼り合わせ技術やバックリング構造などの有無による伸縮性差を利用した研究を進めていく。上記のアプローチについて有機太陽電池を作製し曲げや伸ばしに対する太陽電池素子の特性変化・劣化を観測することで、必要な勾配の知見を得て、最適な系を確立することを目指す。引張変形時と曲げ変形時の太陽電池素子に加わる力学的な歪みはそれぞれ異なるメカニズムで発生する。引張時には弾性勾配によって、柔らかい部分がより引っ張られ、硬い部分はほとんど変形しないような状態が観測されることが知られている[6]。一方で、多層膜の曲げ変形時には、構成する各層の膜厚とヤング率に応じた歪みが加わることが計算によって示されている。これらの2つの変形モードに対する素子の特性変化をシミュレーションも適宜利用しながら詳細に解析することで、最適な弾性勾配や素子配置を決定していく。 柔軟な太陽電池の応用例として、ナノ薄膜から構成されるバイオハイブリッド素子への電気刺激を通じてソフトアクチュエーションを実現する。具体的には、藤枝が得意とする筋組織工学を利用して、骨格筋細胞をナノ薄膜表面で配向させる。この時、骨格筋組織を構成する筋管への電気刺激の場合は、6 V、1.1 mA、6.6 mW程度の刺激によって変位が50-100 μm得られることが知られている。そこで、上記の報告例を参考に太陽電池から生じる電力を骨格筋担持PDMSナノ薄膜に与えることで、培養筋を収縮させ、太陽電池を電源とする新しいバイオロボットシステムを構築する。 最終的には圧力センサ・歪センサなどのアクチュエーションを検出するために必要なセンサ部位も弾性グラディエントナノ薄膜に作製し、電源、センサ、アクチュエータ一体化システムを確立するところまでを行う。
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